2022.06.14

中日を襲った4番と監督のトラブル。「金正日やフセインが監督になったら…」

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki

 声に怒気がみなぎり、掌(てのひら)を上にした両手が素早く天に跳ね上がった。高校野球では、そのような理由でキャプテンに任命されるケースがあると聞く。プロではどうなのか。

「だから会場着いて、ポーンと態度変えちゃった。『監督、悪いけども、これは断らしてもらう』っつって。それでその晩、名古屋のテレビ局でね、球団代表、監督、キャプテンが来季に懸ける抱負を語る番組というのが生放送であった。もう断る気でいたけど、一度は承諾してるから行かなきゃなんなかった。

 それでアナウンサーに『新キャプテンの森さん』と呼ばれて、『どうでしょう、来年は』と聞かれたから、『ああ、まあまあ、適当にやるよ』と、こう答えたんだよね。で、アナウンサーが『適当にですか? 一生懸命にやるとかは......」と返してきたから、『いやいや、そんな気にならねえ。適当にやるよ』と。それからだよ、ボタンの掛け違いが始まったのは」

 すごすぎて、またもや苦笑するしかない。テレビを見ていた当時の中日ファンの目にはどう映り、どう聞こえたのだろうか。

「それからまた、あとで巻き返しがあった。森が断った、何とかしてまとめなきゃ、と向こうも焦ったんだろうな。今度は『幹部制度をつくりたい』と。オレを含めて4人の選手が幹部で、その大将が森だと。そのときのオレは、どこまでも意固地になることはない、と思って引き受けた。それで別府のキャンプに行って、選手会みたいなもんをやった。

 幹部選手側から首脳陣に対して、こういう希望がありまして、とかね、話し合ったわけよ。そしたら、あとで『森の野郎、選手の分際で生意気なこと言いやがって』とか、そういう声が聞こえてきたんだよ。『なんだい、そんなことだったら制度なんか関係ねえじゃねえか。やめた、こんなもんは』っつって、そこで若いゆえの正義感が出て、反乱につながっちゃった」

 事の真相は、一監督と一選手の確執と言えるレベルではなかった。それにしても、濃人監督はなぜ、森さんと他の選手とで違うことを言ってしまったのだろうか。