「10分で球速10キロアップ」「イップスを1時間で改善」...SNSやYouTubeに躍る華美な謳い文句は本当か?

  • 中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Koike Yoshiyuki

 長らく野球界の指導は、走り込みや投げ込みに象徴されるように"アバウト"な部分が少なくなかった。とにかく量をこなし、自分の限界に挑むなかでつかめるものがあるはずだ。それが昭和の主流だった。

 時を経て令和になり、テクノロジーによってさまざま感覚を可視化できるようになった。ラプソードやハイスピードカメラを使い、データや数値から感覚をコピーする「ピッチデザイン」という方法もある。そうしたアプローチが注目される以前から、北川はひたむきに数字と向き合ってきたことがトレーナーとしての矜持だ。

 もともと観察眼が高く、高校時代は対戦相手の偵察を任された。進学した筑波大学では「コーチング原論」という研究室に所属し、競技パフォーマンスがどういう構造でどのように向上していくかを学んだ。

知識、経験を生かした独自の施術

 卒業後は阪神でトレーニングコーチを務めた前田健が運営する「BCS」に就職して身体動作を教え、約1年後、つくば市の施設で運営から任されたことが転機になった。

 時に1日10コマ、自分でボールを投げて見本を示すと、肩・ヒジに大きな負担がかかり、自身で体を調整する方法を模索するうちに「こうやって体を触ればいいのか」とわかってきた。選手にもやってみると、「痛くないです」「動きます」と課題が改善された。

「体の使い方を教えても、可動域がなかったり、力を入れられずに筋肉が思うように動かなかったりすることが多くありました。『この筋肉をよく動くようにするね』『関節が動いたうえで、そこを固めるにはここに力を入れるといいよ』などと話して投げさせたらスピードが上がったり、バッティングの飛距離が伸びたりして、これだなというのがわかりました」

 スポーツトレーナーは、必ずしも資格が必要な職業ではない。柔道整復師や理学療法士として治療を行ないながら、身体構造などの観点から独学でプロ選手を指導する者もいる。S&C(ストレングス&コンディショニング)やAT(アスレティックトレーナー)といった専門性はあるが、選手目線に立てば大事なのは自分をどれだけ成長させてくれるかだ。

2 / 5

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る