元審判員が「すごかった」と語る「選手、監督としての落合博満」。あわや放棄試合の猛抗議で審判に言い放ったまさかのひと言とは?

  • 水道博●文 text by Suido Hiroshi
  • photo by Sankei Visual

 早い段階でボールが変化するより、バッターの直前で変化するほうが威力はあります。「今日は曲がりが早いので、打者を打ちとれず交代させる」という落合監督の見立てと、球審の目が同じだったかの確認だったのです。

 打ちとる打球から、投手の調子を判断する。落合監督のすごさを再認識させられました。

正真正銘のアーチスト

 また私は日米野球の球審を務めた経験があり、日本人選手と外国人選手のスイングの違いを見せつけられました。最も大きな違いは、投球を見逃すタイミングでバットが出てくるのがメジャーリーガーで、「1・2・3」とタイミングをとってスイングするのが日本人選手。だから、メジャーリーガーはバットを振るのか振らないのかがまったくわかりません。

 ただ、日本人選手のなかでもメジャーリーガーのように、スイングするのかどうかわからない選手がいました。それが現役時代のイチロー選手と落合さんでした。

 イチロー選手は、アウトコースのボール球を見逃すかと思った瞬間、いきなりバットが出てきてレフト線へ二塁打。メジャーリーガーのようなスイングをする日本人選手がいるんだと......その後、メジャーでも大活躍するわけですが、あの頃からメジャーリーガーと遜色ないスイングをしていたのが今も印象に残っています。

 一方、落合さんは左投手のインコースに入ってくる変化球を「見逃すかな」と思ったタイミングで振り出して、ライト方向にホームランしたバッティングが記憶に残っています。

 落合さんは現役引退後、「オレが本当に苦手なのはアウトコースだが、インコースをライト方向にうまく打てたから、アウトコースはもっとうまく打つんだろうと思ったのか、ほとんど投げてこなかった(笑)」と述懐していたそうですが、技術力が突出していました。

 スイングスピードに関しては、落合さんはそれほど速いとは感じませんでしたが、打球に勢いがあってスタンドインしていましたね。ミート力はもちろん、ボールに力を伝えるのがうまかったのでしょう。打球が大きな弧を描いてスタンドインする。文字どおり「ホームランアーチスト」という表現がピッタリの選手でした。

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