元審判員が「すごかった」と語る「選手、監督としての落合博満」。あわや放棄試合の猛抗議で審判に言い放ったまさかのひと言とは? (2ページ目)

  • 水道博●文 text by Suido Hiroshi
  • photo by Sankei Visual

 2日後、事務所に呼び出され上司と映像を確認しました。

「これが問題の映像だ」
「でも、映像の角度が......」
「君がそう見えたなら仕方ない。だけど場内放送の時、選手の名前、間違ってないか?」

 結局、始末書を書くことになりました。

ベンチから投手の調子を完全掌握

 2010年前後、セ・リーグを代表する投手に中日の吉見一起投手がいました。08年から5年連続2ケタ勝利。09年と11年には最多勝のタイトルを獲得しました。

 吉見投手はすべての球種でストライクがとれました。とくに、右バッターのインコースのボールゾーンからストライクになるスライダーは抜群でした。曲がりが遅いので、バッターはボール球だと判断して必ず見送ります。バットを出してもファウルにしかなりません。

 そのボールのキレがいいということは、当然、左バッターに対してはアウトコースの外から入ってきてストライクになる、いわゆる"ハチマキ"も絶品で、まさに無敵でした。

 9イニング平均与四球率1.57個という抜群のコントロールが武器だけに、球審として困ることもありました。

 それだけ制球力抜群の吉見投手ですが、人間ですから年に数回は微妙にコントロールを乱すことがあります。さすがにボール1個分外れると、プロの球審として「ストライク!」とは言えません。

 ただ、誰もが「吉見投手はコントロールが抜群」という大前提で見ているため、際どいコースを「ボール」と判定すると、「見極めができない球審」というレッテルを貼られてしまうんです。

「佐々木球審、今日はアウトコース、ちょっと辛くねえか?」

 ダグアウトからはボールの高さはわかっても、コースまでは判断できません。でも、落合監督はちゃんと見ていてくれていました。その試合、早い段階で吉見投手を降板させることになるのですが、交代を告げる際、落合監督はこう言ってきました。

「外、全然外れているのか?」
「はい、全然です。今日は早く曲がりすぎます」
「だろうな。おまえのせいじゃないから、気にしないでやれ」

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