元審判員が選ぶ「印象に残る名捕手5人」。キャッチングNo. 1や球界一の強肩、仏と評された選手は?

  • 水道博●文 text by Suido Hiroshi
  • photo by Koike Yoshihiro,Sankei Visual

ただのおしゃべりか、それとも策士か...

城島健司(元ダイエー、阪神など)

 テレビで見ているだけではわかりづらいのですが、バッターは打席に入る時、キャッチャーや球審に軽くあいさつをします。その際、バッターに話しかける捕手がいます。その昔、野村克也捕手がバッターに話しかけて集中力を散漫にさせた「ささやき戦術」が有名ですが、審判に話しかけてくる捕手もいます。

 私が知っているなかでは、城島捕手が筆頭です。1回から9回までずっとしゃべり続けていました。正直「ちょっとジャッジに集中させてくれ」というレベルです(笑)。もちろん、バッターの集中力を削ぐ目的もあったと思うのですが、単に話し好きだったんじゃないかと......。

 ある試合でこんなことがありました。右バッターに対して、アウトコースのスライダー。誰が見ても完全なボールだったのですが、城島捕手は「佐々木さん、いっぱいいっぱいボールですか?」と。なんでそんなことを聞くのかわからずに「はあ?」と曖昧な返事をしたのですが、どうやらバッターには「はい」と聞こえるらしいのです。完全なボール球と思ったのが、ギリギリのボール球に......。バッターは自分の選球眼を疑い、戸惑ったそうなんです。

 ただのおしゃべり好きか、それとも策士か。強肩・強打の捕手としてもすごい選手でしたが、私はそっちのほうで強く印象に残っています。

里崎智也(元ロッテ)

 ストライクかボールか、どっちに判定されてもいいコースに決まった時、球審のジャッジにキャッチャーは納得せざるを得ません。しかし「ボール」とコールされて、キャッチャーが一瞬ピクっと反応することがあります。その時はたいてい「ストライク」です(笑)。

 当然ながら、文句を言ったり、ストライクゾーンを再確認してくる捕手がいますが、里崎捕手は何も言わずにピッチャーに返球します。だから審判仲間で「里崎と書いて仏(ほとけ)と読む」と評していました。

 またキャッチャーのリードは、困ったら「アウトローのストレート」「アウトローの変化球」が定石ですが、パ・リーグのキャッチャー、とくに里崎捕手は積極的にインコースのストレートで勝負するイメージがありました。

 ある記者が「里崎捕手はフォークでワンストライク、フォークでツーストライク、高めのストレートのボール。そして最後はフォークと思いきや、ド真ん中のストレートで見逃し三振......。バッターの裏をかくリードは秀逸で見逃せなかった」と語っていたのですが、まさにそのとおり。「その配球で勝負するんだ」と何度も驚かされました。

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