甲子園を目指さない高校球児も急増。「負けたら終わり」のトーナメントは時代錯誤なのか

  • 中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Kyodo News

 八田英二前会長が日本高野連のトップだった頃、筆者は「スケジュールを見直せないか」と、聞きにいったことがある。球場と日程の兼ね合いを考えると、休養日を設けるのが精一杯とのことだった。「甲子園で全試合を開催しなくてもいいのでは」という声も巷では上がるが、現場の声を拾うと"聖地"へのこだわりが強いという。

 以上を踏まえると、日本高野連としては選手や指導者の要望を聞きながら、年間スケジュールをこなすには現状のフォーマットで可能な工夫をするしかない、という判断になっている。

育成に最適なリーグ戦

 対して、もっと根本的な改善を訴える元高校球児がいる。堺ビッグボーイズ中学部の監督で、野球大国・ドミニカ共和国の指導法を日本に伝えている阪長友仁だ。

「『1週間に500球以内』という規定は、球数だけにフォーカスしたから『こんな規定では公立高校は勝ち抜けない』とか、『野球人生の最後に投げたい子はどうしたらいいのか』とかいろんな意見があって、当たり障りないルールになったと思います。でも、低反発バットやトーナメント制など高校野球の全部のあり方を考えて、何が野球界にとって一番いいかを議論しなければいけない」

 阪長は新潟明訓高校時代に甲子園の土を踏み、立教大学で主将を務めたあと、青年海外協力隊などで中南米に赴任している間にドミニカの野球を学び、日本球界の育成のあり方に疑問を覚えた。そうしてとくに訴えるようになったのが、トーナメント戦ではなくリーグ戦の実施だ。

 実際、堺ビッグボーイズがNPO法人BBフューチャーとして主催する大会は、リーグ戦にあらためている。「負けたら終わり」ではなく「負けても次がある」ことで多くの選手が出場機会を得やすく、投手の登板過多も減り、指導者は送りバントではなく自由に打たせる場面が増えたという。

 世界に目を向ければ、野球の基本フォーマットはリーグ戦だ。日本のアマチュア球界で伝統的なトーナメント方式は確かに単純明快で、とくに学童野球では冠大会などスポンサーがつきやすいというメリットもあるが、「負けたら終わり」は育成に合わない。

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