甲子園を目指さない高校球児も急増。「負けたら終わり」のトーナメントは時代錯誤なのか (2ページ目)

  • 中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Kyodo News

 そうして徐々に個々のレベルが高まり、2021年春には同校初の甲子園出場を果たした。同年夏にはベスト4まで勝ち上がっている。

球数制限よりも日程改善の必要性

 小牧監督は今も育成を最優先するが、選手たちの成長を加速させた背景には甲子園の存在もある。

「当時(2021年)の3年生が『何がなんでも甲子園に出たい』という学年だったんですよね。それで森下を呼んで、『ピッチャーなんて勝たな評価してくれへんし、勝ったらプロのスカウトの評価も上がるぞ』と言ったんです。そうしたら、『じゃあ、甲子園に連れて行きます』って。それであそこまで上に行ったことで、今度はチームを日本一に導いてドラフト1、2位でプロに行きたいという目標に変わってきたみたいです。

 甲子園のあと、秋の近畿大会初戦の試合前、『全球団のスカウトが来ている。履正社に完封でもしたら、ドラフトの順位がひとつ上がるぞ』って言ったら、『完封します』って。あくまでプロありきなんですよね」

 京都国際は今春のセンバツを新型コロナウイルスの集団感染で辞退した一方、代わりに出場した近江(滋賀)が滋賀県勢初の決勝まで勝ち上がった。そこで腕を振り続けたのが、こちらもドラフト候補の山田陽翔だ。初戦から4試合連続完投、準決勝翌日の決勝でも先発したが、3回に力尽きた。多賀章仁監督は「彼の将来を見た時に間違いだった」と後悔の念を口にした。

 甲子園に出れば、是が非でも勝ちたくなるのはある意味で当然だろう。そのなかで日本高校野球連盟は投手の肩・ヒジを守るために「1週間に500球以内」という球数制限を設けたが、機能しないことは周知の事実になった。現状では監督の判断に任せるという、投手たちの将来を丸投げした格好になっている。

 昨年のセンバツを観戦した元中日の吉見一起は先発投手の球数の多さに疑問を持つと同時に、大会スケジュールに改善の必要性を感じた。

「出場順がうしろのチームは球数制限で不利になるじゃないですか。それは間違っていると思います。『球数、球数』と言うなら、みんなが均等になるように。運営の事情はわからないところもありますが、もう少し試合間隔に余裕を持ってもいいのではと思いました」

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