鍬原拓也が「クビも覚悟した」育成契約。菅野智之の「点ではなく線で」の助言に新発見があった (3ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Sankei Visual

きっかけは菅野智之との自主トレ

 2021年オフに鍬原の転機が訪れる。エースの菅野智之が宮古島で実施する自主トレに参加させてもらったのだ。菅野は鍬原に言った。

「点で投げてるから、バッターからしても『150キロの真っすぐね』って伝わって、とらえられてしまうんじゃないか」

 大学時代から「脱力」を意識して投げていた鍬原にとって、菅野の言葉は目からウロコだった。

「僕はそれまで『ゼロ』の力感から、リリースの瞬間だけ『100』に持っていくことを意識していました。でも、その投げ方だと『点で投げる』ことになってしまう。これは僕には合ってないんだなと感じました」

 菅野が意識していることは、「点ではなく、線で投げる」という感覚だった。

「ボールの重みを感じながら、ボールを長く持ってバッターの手前まで近づいてリリースする」

 菅野の教えを意識しながら、鍬原はキャッチボールから見直した。

「リリースの瞬間だけバンと力を入れるのではなくて、もっと後ろからグーッ、グーッと徐々に上げていって、線で投げるイメージで投げています」

 ヒジの手術から1年以上の時間が経過し、不安なく腕が振れるようにもなっていた。心身とも充実した鍬原のストレートは、打者の手元でぐんぐん勢いを増していく。春季キャンプから実戦で結果を残すと、3月11日には早くも支配下に復帰。実績のあるリリーフ陣が軒並み故障や不振に苦しんだこともあり、開幕からチャンスをつかんだ。

 自分の名前がコールされるたび、鍬原は「失うものはない」という思いを噛み締める。

「ドラフト1位を経験して、育成落ちも経験して、2度目の育成落ちまで経験したので。もう這い上がっていくしかないと思っています。1試合1試合、自分の任されたところで結果を残していこうと常に考えています」

 スライダーを投げた際にヒジを骨折した反省から、ヒジに負担のない腕の振りを研究。その結果、カットボールに手応えを得た。「いつでもストライクをとれるボールになった」と語るほど、自信を持って投げられる球種になった。

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