42歳・久保康友が無給で独立リーグのマウンドに上がる理由。「仕事やお金がなくなっても死ぬわけじゃないし...」 (2ページ目)

  • 菊地高弘●文・写真 text & photo by Kikuchi Takahiro

 NPBでプレーした当時、久保にとっての「オフ」は、10月の1カ月間だけだった。年明けの1月から始動し、2月の春季キャンプで本格的にコンディションを整える選手が多いなか、久保は前年11月から翌年に向けたトレーニングを始めていた。

「キャンプ前には体ができ上がっていて、キャンプでは余裕をもって調整したかったんです。オフは1カ月しかないので、嫁さんと滝巡りをしたり、名所を回ったり、国内旅行だけで妥協していたんです」

 ストイックな現役生活は1年、また1年と続いていった。それと同時に、久保の世界遺産への渇望もふくらんでいった。2017年シーズン終盤、37歳の久保はDeNAから戦力外通告を受けて退団。すると、翌2018年から海を渡った。アメリカの独立リーグでプレーし、さらに2019年にはメキシカンリーグへ。目的は野球以上に世界遺産巡りにあったと久保は言う。

「1カ月休みをとって海外旅行に行くのもいいですけど、出張に出たついでに名所に行くのって楽しくないですか? 仕事のついでに観光する、あの感覚ですよ」

 遠征先では寝る間も惜しんで町に出かけた。土地の文化や産業を調べ、公共の交通機関を使って移動し、その地で暮らす人々と接した。久保は「観光地で見せる顔だけでなく、本質的なところが見たかった」と振り返る。治安の悪さを指摘する声も耳にしたが、幸運にも危険な目に遭うことはなかった。

「日本人とわかったら何か被害に遭ったかもしれないですけど、別にきれいな格好もしていないし、日に焼けて『現地の人かと思った』と言われるくらいだったので。それだけ馴染んでいたのかもしれませんね」

 異国での生活を謳歌していたが、メキシコでは所属球団からの給料遅配など不条理な体験もした。だが、久保は「そんなものでしょう」と意に介さない。

「日本のものさしで考えれば不条理と思うかもしれないけど、外国には外国のルールや価値観があるので。『そういうこともある』と思えば、どうってことないですよ」

2 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る