「正しい投球フォーム」は本当に存在するのか? 吉見一起が「自分の感覚」の重要性に気づかされた中日時代の苦い教訓 (4ページ目)

  • 中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 練習ではブリッジや側転など、「キネティックフォーラム」を主宰する矢田修トレーナーが監修したエクササイズを重点的に行なう。さらにバレーボールなど大きいボールや、重さ400グラム、長さ73.5センチの「フレーチャ」というやり投げからヒントを得た器具を使ってスローイング練習に取り組む。

 硬式球なら小手先だけでも投げられるが、バレーボールやフレーチャを投げることで体全体を「ひとつにつなげて使う」ことを覚えていく。中学部の阪長友仁監督が説明する。

「投げる時に『ここで離せ』とか『この角度で』と言うのではなく、体全体がちゃんと使えるようになり、最終的にフォームに行き着きます。だから、ただ投げるだけではなく、まずはちゃんと立てるようになることも大事です。足を上げた時に、バランスよくしっかり立てるようになる。立ち方や体の使い方、エクササイズがあって、体全体を使って力を最大限に出せるように練習していく。僕らはこれが正しいと思っているけど、人によって考え方が全然違うでしょうね。だから、"○○流"という表現が生まれるんだと思います」

 人の感覚はそれぞれ異なるため、万人に当てはまる正解はない。左足と右足、左手と右手で、どちらが使いやすいかは人それぞれだ。

 だが、リリース時にどうすればより多くの力を生むことができるか、源流からたどっていく方法はある。トレーニングやバイオメカニクス、スポーツ科学やテクノロジーの進化により、さまざまな方法が語られるようになった。

 正しい投球フォームとは、あくまで結果として表現されるものだ。だからこそ一部をいじるのではなく、全体としてとらえることが重要になる。

 そうした認識を選手や指導者が持てば、投手を育てる環境は一気に向上していく。

第5回につづく

(一部敬称略)

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