「トミー・ジョン手術で球速が上がる」は都市伝説。元中日の吉見一起「完全復活できたわけではなかった」 (3ページ目)

  • 中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Sankei Visual

 だが体重を増やしすぎたあまり、重くなった自分をうまく操れず、局所的な負担がかかって故障を繰り返す投手もいる。両者の分かれ道はどこにあるのか。オリックの山岡泰輔やソフトバンクの松本裕樹と個人契約する高島誠トレーナーはこう考えている。

「単純に筋肥大すると、大きくなるけど機能的に動くのかという問題があります。そもそもトミー・ジョン手術に至った時点で、少なくとも機能的ではない動きをしているはずです。ただ大きくするのはその問題点を無視している可能性があるので、必ずしも筋肥大がプラスとは限りません」

 とりわけ高校生以下でトミー・ジョン手術に至る場合、必ず問題点がある。重い故障に限らず、小さいケガでも原因を掘り下げて考えることが重要だ。高島トレーナーが続ける。

「なぜケガしたかを考えて、改善する取り組みをしてほしい。どれだけ練習を制限しても、時間を短くしても、ケガをする子はします。再発する子は理由を考えないんですよね。休めばよくなると思っているから、『とにかく休ませてください』と言ってくるけど、『休めば患部に負担はかからないけど、股関節や胸郭が硬くなる。投げ方にもちょっと問題がある』と伝えます。患部を休ませるだけでなく、ほかの問題点を改善していかないと、何も変わりません。ある意味、小さいケガであればいいんです。気づくチャンスなので大事にしたい。でも、そこを見逃してしまうと、のちのち大きいケガにつながる可能性が出てくる」

無意味な根性論はナンセンス

 かつて1%未満とされたトミー・ジョン手術の成功率は、今や90%を超えるまでになった。それでも古島医師は、「トミー・ジョン手術をしないに越したことはない」と語る。

 故障を防ぐには、予防が不可欠だ。そのうえで、野球選手としてのレベルアップをいかにして両立させていくか。

 ある意味、ボールを投げることは故障リスクを高めているとも言えるが、うまくなるには一定以上の負荷をかけることが避けられない。二律背反を絶妙なバランスで成立させるためにも、古島医師は講演や野球ヒジ健診など啓蒙活動を続けている。

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