澤井良輔の人生を一変させたセンバツ・PL学園戦での一発「僕は運がよかっただけなんです」

  • 田口元義●文 text by Taguchi Genki
  • photo by Kyodo News

「東の澤井」「西の福留」

「あのホームランはまぐれですよ」

 27年後の今、澤井が冷静に回想する。

「センバツではほとんど打ってないですよ。甲子園の初打席がホームランっていう印象が強かったのと、同じショートで左バッターの福留も打ったから話題になっただけで」

 優勝候補を撃破し勢いに乗った銚子商はセンバツで準優勝し、澤井が立役者のような扱いをされていた。しかし、実際には本人が話したように19打数4安打、2割1分1厘と、どちらかというと精彩を欠いた。しかも、ショートとして5試合で7失策。「それはエラーじゃねぇだろってプレーもあったんですけど......」と頭をかく。

「だから、僕は大した選手じゃないんです。運がよかっただけなんです」

「東の澤井、西の福留」と高校野球界を二分する存在となっても、澤井は迷わず言った。それは自らを卑下しているのではなく、現実を知っているからだ。

 新チームとなった2年秋まで遡る。関東大会ベスト4となり、公式戦で打率5割4分3厘、3本塁打とセンバツ出場の原動力となった澤井は、シーズンオフに開催されたアジアAAA選手権の日本代表に選ばれた。

 PL学園の福留をはじめ、東海大相模の原俊介(元巨人)、熊本工の松本輝(元ダイエーなど)、関西の吉年滝徳(元広島)、今治西の藤井秀悟(元ヤクルトなど)。のちに上位指名でプロ入りする猛者たちが集結していたが、澤井は福留どころかほとんどの選手を知らなかった。

 それでも、プレーを見れば彼らがただ者ではないのだとすぐに理解した。なかでも、やはり福留は別格だった。パフォーマンスだけではなく、澤井がバッティングの相談を持ちかけると的確にアドバイスをしてくれ、実践するとすぐに結果を出せた。

「僕も飛距離には自信があったんですけど、孝介はとてつもなく飛ばしてました。いろんなところにも気づくし、技術的なこととかもはっきり指摘してくれたりね。『やっぱり、PLのレベルってすごいんだな』って」

 だからこそ、AAA選手権で「3番・澤井、4番・福留」のコンビを組んでも、センバツでホームランを競演し名が売れても、冷静に自分を客観視することができた。

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