オリックス吉田凌「僕が首を振ったら、どうせスライダーだろうと」。7割、宝刀を抜き続ける甲子園優勝投手のメンタル

  • 中島大輔●取材・文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Jiji Photo

刻まれた日本シリーズの2敗

「スライダーがあったから、僕はプロになれたと思っています」

 自身の決め球は、プロでも通用する手応えを得た。その一方、一軍でチャンスを掴むにはほかの球種も覚える必要を感じた。唯一無二の武器をただ投げるだけでは、厳しいプロ野球の世界を勝ち抜くことはできない。

「せっかく一塁側のプレートを踏んでいるから、シュートもどうや?」

 2019年後半に二軍のコーチ陣からそう勧められたのは、同年からプレートを踏む位置を三塁側から一塁側に変えたからだ。

 右打者へのスライダーを活かすには内角を攻めることも不可欠だが、抜ける怖さが拭い切れない。それが吉田の課題だった。

 シュートの握りで投げてみると、感覚的にフィットした。曲げよう、スピードを変えようなどと意識せず、とにかく内角を突ければいい。そうして2020年、吉田は35試合で防御率2.17と飛躍を果たした。

 迎えた昨季、チームが25年ぶりのリーグ制覇を目指した後半戦に一軍昇格すると、勝利の方程式に組み込まれた。クライマックスシリーズのファイナルステージに続き、日本シリーズでも勝負を左右する場面で投入される。

「1戦目から山本由伸のあとで、チーム的に絶対落とせない。しかも1対0で負けていて、次の2点目は与えられない場面だったので、本当に緊張しながらマウンドに上がりました」

 吉田は見事な火消しを成功させた一方、刻まれたのが"2敗"の記録と記憶だった。第3戦ではドミンゴ・サンタナに逆転ツーランを浴び、第6戦では延長12回に打たれて日本一を決められている。いずれもスライダーが甘く入ったものだった。

「スライダーのサインが出た時は自信を持ってうなずいているけど、変に迷いもあって。あえてここで違うボールでいくのもありかな、と。

 でもシュートをいって、甘く入って打たれるのが一番アカンしな、と迷っているなかでスライダーを投げた時、その分だけ指にかかっていなくて、変化しなかったところをサンタナに打たれました」

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