無名校出身のドラフト最下位指名投手が手にした1800万円の重み。楽天・西口直人の「下剋上物語」 (3ページ目)

  • 田口元義●文 text by Taguchi Genki
  • photo by Kyodo News

 今までなかった感覚だったと、西口は言う。

「前半戦は『決め球不足』ってところで悩んでいた部分があって。福井さんから教わったイメージで投げたら、フォークボールがストンと落ちるようになりました」

 収穫はそれだけではない。フォークと同じようにリリースすることによって、ストレートもボールにより回転を加えられ、抜け球も格段に減った。「空振りがとれない」と苦闘していた前半戦が嘘だったように、バッターを仕留められるようになった。

目標は100イニング登板

 成果はすぐに出た。侍ジャパンとの強化試合後のエキシビションで3試合に投げ、3回を6奪三振、パーフェクトに抑えた。「自信が持てた」と、西口に新たな力が宿る。

「あのあたりからコツのようなものを掴めました。ストレートの球質が一番の武器だと思っているなかで、後半戦はそこで空振りやファウルを多くとれるようになって、『一軍でも渡りあっていけるんじゃないか』って」

 後半戦は前半戦を上回る20試合、31回2/3を投げ自責点はわずか5。防御率1.42と抜群の安定感でブルペンを支えた。何気ない会話、些細な変化が、西口を楽天に欠かせないピッチャーへと豹変させたのである。

 その西口が今シーズン、先発に挑戦する。そのための準備を、自主トレから着々と進められていた。大きなところではスライダーの習得だ。

 昨年、革新の代名詞となったフォークも完全無欠の変化球ではなかった。左バッターの被打率が1割7分9厘と押さえ込めたのに対し、右バッターは2割6分5厘だった一因に、フォークを見極められたこともあった。ピッチングの幅を広げるために着手したのがスライダーであり、その有用性を勧めてくれたのが自主トレ相手の中日・柳裕也だった。

「別に空振りをとれなくても、バッターに意識させられるだけでも意味がある」

 昨シーズン、セ・リーグの最優秀防御率と奪三振王の二冠を手にした中日のエースが説く投球術により、西口の思考が明るくなる。

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