社会人で戦力外寸前からの大逆転劇。高梨雄平は球界屈指の「左キラー」へと上り詰めた (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Koike Yoshihiro

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 後関は高梨の目論見以上に評価してくれた。ちょうど左投手のリリーフ陣が手薄という楽天のチーム事情もあった。

 JX−ENEOSの正捕手だった日高一晃はスライダーが曲がらない高梨のために、さらなる策を授けた。

「120キロの真っすぐと130キロの真っすぐも投げられる?」

 たとえ球種が少なく、最高球速が140キロ程度でも、球速帯の異なるストレートを投げられれば打者を幻惑できる。そんな日高の提案に対して、高梨はすんなりと応えてみせた。「こんなこともできるのか」と驚く日高をよそに、高梨は淡々としていた。

「意外と小手先の感覚はあったのかもしれません。でも、僕からすれば遅くすればいいだけなので。『打たれてもいいや』と思えば、投げられるじゃないですか。僕はたぶん『打たれたら日高さんのせい』と思っていたので」

【指名後に知らされた衝撃の事実】

 2016年10月20日のドラフト会議当日。高梨は野球部寮の自室でドラフト会議の行方を見守っていた。会議前に調査書が届いたのは楽天の1球団のみ。後関からは「指名があるとしても下位」と伝えられていた。

 JX−ENEOSからは糸原健斗が阪神に5位で指名された。さらに会議が進んだ最終盤、楽天の9位で高梨の名前が呼ばれた。世間的には「サプライズ指名」だったが、チーム内での驚きはさほど大きくはなかった。誰もが高梨の独特の感性と自分の道を貫くメンタリティは、プロ向きだと認めていた。

 高梨の指名を見届けた柏木は、祝福するために高梨の部屋を訪れた。ところが、高梨は自室で洗濯物を畳んでいた。しかも全裸姿である。

 柏木が「おめでとう!」と声をかけると、高梨は驚いた表情で「なんのことですか?」と答えた。その時点で、高梨は「自分の指名はない」と見切りをつけていたのだ。

「6位で準硬式の鶴田(圭祐/帝京大準硬式野球部出身)が指名されて、『さすがにねぇだろ』と思って。同じ左投げですし、そこから社会人の左なんて獲らないだろうと。あきらめたというより、客観的に見て『ないだろう』という感じですね」

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