松坂大輔も追い求めた幻の一球。水島新司さんの名作に込められた「真のプロ野球のあり方」 (2ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Sankei Visual

 そして、水島さんが描いた"新田小次郎"を理想のピッチャーとして追いかけた野球人はたくさんいた。もっとも印象に残っているのは、松坂大輔である。

 松坂はプロ2年目、19歳の春に『光の小次郎』を全巻、読破した。

 甲子園で騒がれ、ドラフト1位でプロ入りした小次郎と松坂にはいくつもの共通点があった。ルーキーながら開幕投手の座を争ったオリオールズのエース、伊達正次はライオンズの西口文也に重なるし、先発を勝ち取った開幕戦で小次郎がひとりで投げ切ったのは、松坂が1998年夏の甲子園の準々決勝でPL学園と戦った時と同じ延長17回。最後のバッターから三振を奪って勝った直後の小次郎の疲労困憊ぶりは、あらためて読むと16年後の松坂を思い起こさせる。

 さらに小次郎がその試合で投げたストレートの最速は156キロで、パ・リーグをモデルとしているワイルド・リーグのオリオールズ戦は新田の加入でどこの球場も満員。他球団のエースやスラッガーが新田との対決に燃えて盛り上がる雰囲気もまた1999年のパ・リーグに重なった。振り返ればことごとく時代を先取りしていた"水島ワールド"の本領発揮、水島さんの慧眼を痛感させられるシーンが次々と描かれていく。

【松坂に衝撃を与えた奇跡の一球】

 そして松坂に衝撃を与えたのが、オールスターゲームで小次郎が投げた"光のボール"だ。

 ファン投票で選ばれた小次郎はオールスターの第1戦に先発した。エキサイト・リーグのスター軍団を相手に、小次郎は立ち上がりから変化球を駆使したピッチングで三振の山を築く。狙っていたのは江夏豊超えだ。9つ続けて三振を奪うだけでなく、9人連続で一回たりともバットにかすらせることなく三振を奪ってやろうとしていたのだ。だから小次郎は変化球を交えたピッチングを続けて8人からバットにかすらせない三振を奪った。

 そして最後の一球、小次郎が投げたのが"光るボール"だった。

 スピードガンで測定不能、バッターにも見えない、審判もバッターが振ったからコールできたと言い、キャッチャーまでもが見えなかったと言って手首を捻挫したストレート──小次郎は、しかしそのボールをどうやって投げたのかがわからなかった。

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