神の足・鈴木尚広が「走りにくかった」捕手5人。「走ることの怖さ」を教えられた選手は? (2ページ目)

  • 中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Sankei Visual

 一軍に上がって2年目以降は盗塁数を増やしていきましたが、その頃に最も走りにくかったキャッチャーは谷繁(元信)さんです。特別な「苦手意識」というより、当時の谷繁さんはセ・リーグのナンバーワンのキャッチャーでしたから。捕ってよし、投げてよし、コントロールよし。二塁ベースの上に送球して、走者と勝負してくるキャッチャーです。

 谷繁さんはピッチャーに対して「クイック、クイック」と口酸っぱく言っていて、試合後半になればなるほどクイックをできるピッチャーが出てきます。とくに浅尾(拓也)投手はクイックも牽制のターンも速いから、なかなか盗塁できませんでした。変化球が来そうなカウントなどで仕掛けるしかなく、全体的に中日バッテリーはすごく走りにくかったです。

 でも谷繁さんと勝負できることは、ランナー冥利に尽きます。谷繁さんから盗塁を決められることと、ほかのキャッチャーから成功できるのでは、自分のなかで意味合いが違いました。

 基本的に盗塁する際は、自分のなかで80%以上の精度で"いいスタート"を切らなければいけないと考えていましたが、谷繁さんに対しては90〜100%近くまで上げる必要がある。ほかのバッテリーなら、投げミスや、「走られてもいいや」という感覚を向こうから感じましたが、谷繁さんは投げミスがないし、ピッチャーに対しては「絶対走られるなよ」、谷繁さん自身からは「絶対刺すぞ」という雰囲気が常に出ていたからです。

 だからこそ、谷繁さんに対して完璧に上回って盗塁を決められた時には、「勝利できた」という感覚がありました。そうした意味で谷繁さんは、自分がランナーとして磨かれたキャッチャーです。

【相性が悪かった捕手は?】

 苦手意識ということで言えば、唯一感じていたのがヤクルトの中村(悠平)選手です。人間には相性があるので、自分の中で「何かこのキャッチャーとは合わない」という感覚があるんです。

 中村選手とは呼吸が合わせづらいというか、読みづらいというか、裏をかかれていたのか。なぜか、僕の時には必ず完璧な送球をするんです(笑)。ギリギリアウトというより、一呼吸置いてからのタッチアウトなので、「えっ?」という感じでした。

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