2021.12.31
ソフトボール界の怪物はプロ野球入りを勧める恩師に「就活の邪魔をしないで」と憤った【2021年人気記事】

- 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
- photo by Sankei Visual
だが、強豪社会人選手に混じって「自分の力を試したい」という野心は微塵もなかったと大嶋は言う。
「そもそも種目が違うので。周りを見て『あの人やばい』と思えるようなレベルにすらいない。そんな感じでした」
種目が違う──。その感覚は、その後も大嶋にまとわりついて離れなかった。
10月1日、大嶋は日本ハムの非公開の入団テストに臨んだ。球団から呼ばれた19人の精鋭のなかには、帝京の伊藤拓郎(現・日本製鉄鹿島)など有名選手も混じっていた。
テスト中、誰もが自分の実力を発揮することに集中するなか、ひとりだけ「いこうぜぇ~!」と大声を張り上げる場違いな受験者がいた。大嶋である。
「テストが始まる前、GMだった山田(正雄)さんが『プレー以外のところも見ているよ』と言っていて、『声を出すしかない』と考えたんです。印象に残らないより、残ったほうがプラスかなと」
セガサミーの練習参加時と同様に、周りのレベルと自分の実力を比較することすらできなかった。「とりあえず楽しもう」と大嶋はテストに臨んだ。
間の悪いことに、大嶋はソフトボール部での活動中に右ヒジを痛めていた。軽いキャッチボールはできても、遠投やシートノックでのスローイングはできない。ただでさえ野球経験がないのに、スローイング能力すら披露できない。手応えのないまま、テストは終わった。
10月27日、ついにドラフト会議当日を迎える。大嶋はソフトボール部同期の4年生たちと、吉村の研究室に詰めていた。もちろん、記者などひとりもいない。ドラフト会場だけでなく、ドラフト史を揺るがせる指名は目の前に迫っていた。
(後編につづく/文中敬称略)