生命の危機を乗り越えた奇跡の子・山﨑福也は崖っぷちオリックスの救世主となるか

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • photo by Koike Yoshihiro

 年に何度か北海道に行く機会があるのだが、札幌に泊まると必ず立ち寄るのが北海道大学の構内である。札幌駅から少し歩くと正門があり、そこをくぐると一瞬にして世界が変わる。イチョウ並木、レトロな校舎、芝生を駆け回るエゾリス......そんなのどかな景色のなかに突然現れる北海道大学病院。通称・北大病院の偉容を見ながら、いつも思い出すことがある。

「山﨑福也はここで命をつなぎとめてもらったんだなぁ......」

 そのオリックス・山﨑が今シーズン自己最多の8勝をマークして、プロ野球最高峰の舞台である日本シリーズに挑む。

今シーズン22試合に登板し、自己最多の8勝をマークしたオリックス・山﨑福也今シーズン22試合に登板し、自己最多の8勝をマークしたオリックス・山﨑福也この記事に関連する写真を見る 山﨑が中学生の頃、この「北大病院」で死線をさまよう大手術から生還したことは、彼が2014年のドラフトでオリックスから1位指名された時にいくつかのメディアで報じられたから、ご存知の方もいるだろう。

 所沢中央シニアの本格派左腕として、また天性のバッティングセンスで注目され、名門・日大三高への進学も内定した。

 高校入学前に健康診断書を提出する必要もあり、ならば念のためにと、母・路子さんの勧めで全身精密検査を受けることにしたのだが、そこでまさかの「小児延髄上衣腫」という診断が出た。つまり、子どもの脳腫瘍だ。

 もちろん手術しないと生命にかかわる難病で、しかも症例が少なく、さらに患部が難しい場所にあり、困難な手術になることが予想されることもあって、受け入れてくれる病院がなかなか見つからなかった。

 その時にたしか、路子さんのお姉さんが大奮闘されたと聞いた。さまざまな情報をかき集め、北大病院に小児性脳腫瘍手術の権威・澤村豊医師がいることを突き止める。

 日大三高入学まであと少しと迫った3月下旬、山﨑は後遺症が残るリスクをはらんだ難しい手術に臨み、見事に生還してみせた。

 手術に携わった医師たちが驚くほどの回復力だったという。なにより驚いたのは、「お腹が空いた。ステーキが食べたい」という山﨑のリクエストに、「命がけの手術からわずか数日で食べられるわけがないだろう」と思いながら用意したステーキを、目の前でペロリと平らげたことだ。その姿を目の当たりにした路子さんが言う。

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