「選手に自慢できるのは数字を残す過程で犯してきた失敗」石井琢朗が語るコーチとしての特性 (2ページ目)

  • 石塚隆●文 text by Ishizuka Takashi
  • photo by Kyodo News

 現地点でコーチとしての役職は決まっていないが、打撃や守備における実績はもちろん、4度の盗塁王を獲得した韋駄天として今季DeNAが苦しんだ走塁面においても的確なアドバイスや指導ができることは間違いない。また渡り歩いたセ・リーグ3球団の情報も有していると考えれば、DeNAにとって石井の加入は大きなアドバンテージになるだろう。

 そんな石井の指導者としての礎となっているのが、言うまでもなく横浜で過ごした20年だ。とくにベイスターズ元年となった1993年、のちのV戦士となる若手選手たちを積極的に起用した故・近藤昭仁監督時代の経験が大きかったと石井は語っている。

「近藤昭仁さんをはじめ当時のスタッフの方々には本当に感謝しているんです。正直、指導者の立場になって、あの時代の指導が大きな力になっているんです。とにかくコーチがとことんつき合ってくれたことで、今の自分がある。だから僕も教える人間として、選手にとことんつき合うこと。一緒になって汗水流すのが信条なんです」

 そう言うと、次の瞬間、石井は苦笑した。

「ただ、今はそれをやると選手からウザがられるから、まずはきちんと理屈を説明してから入ること。怒り方にしても難しい時代だとは思いますが、だからといって新しいものすべてがいいとは思いません。昔のやり方でもいいモノは残していくべきだし、そこはバランスよくやっていきたいと考えているんです」

 DeNAは科学的な分析など近代的なトレーニング方法を積極的に採り入れているが、石井の野球観とどのように融合するのか楽しみだ。

 コーチとはスキルを指導するばかりではなく、チームを俯瞰し、また経験をもとに深い視野で選手たちに物事を伝えることも重要な役割である。ある時、石井が広島時代の興味深い話を聞かせてくれた。

「カープは2016年から3連覇しましたが、とにかく気をつけたのは最初の優勝の年です。丸佳浩や菊池涼介、田中広輔といった同じ世代の選手が成長することで頂点へ上り詰めましたが、これって1998年の横浜とすごく似ていたんです。

 横浜はその後、連覇を逃すのですが、一緒の道をたどらせないように選手たちには口を酸っぱくして言いました。危機感を持つよう、気持ちをほどかぬように、ここからが大事なんだって。結果、カープという球団は厳しさもあって、また新井貴浩や黒田博樹といったベテランがいたのも幸いし、その後も勝つことができました」

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