ヤクルト高橋奎二の完封劇はなぜ生まれたのか。吉見一起が説いた投手心理と勝負どころの1球 (2ページ目)

  • 中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Kyodo News

 さらに途中からカットボールも加え、バッターに対して奥行き、高低、コースをすべて使ってオリックス打線を抑えました。高橋は途中、乱れ出した時もありましたが、フォアボールを出しても、後続の打者は投げミスなくしっかり打ち取った。

 逆に宮城は8回、1死から西浦(直亨)へのフォアボールが命取りになりました。西浦は打ちそうな雰囲気がさほどなかったなか、敗因につながったのはこのフォアボールです。

 ひとつのフォアボールで、宮城は自分のピッチングを窮屈にしてしまいました。その後、2死1塁で迎えた塩見(泰隆)に三遊間を抜かれた真っすぐは、コースにしっかり投げ切ったかもしれませんが、それまでのボールに比べると少し力が弱かった。

 そして迎えたのは2番の青木さん。もし出したら、3番には山田哲人が控えています。山田はまだ本調子ではありませんが、これまでの実績を考えればやはり回したくない。ピッチャーというのはいろんなことが頭をよぎると、コントロールが甘くなってしまうことがある。

 どんな状況でも同じように投げられるようにするのが好投手の条件ですが、逆に言えば、少ないチャンスをものにするのが好打者。あの場面で打った青木さんは、さすがだと思いました。

 打った球は、インコースよりのやや甘めのボール。これまでの宮城は、真っすぐ、スライダー、チェンジアップを両サイドにしっかり投げていて、バッターにとってはものすごく厳しいボールを見せられていました。それが少し甘く入ったことで、青木さんにとってはかなり甘いボールに見えた。決していい当たりではなかったですが、ヒットゾーンに落とす技術は持っている。青木さんの経験値が勝ったように感じました。

 2人を見ながら感じたのは、ピッチャーは速いボールを投げたいと思いますし、そこは追い求めるべきだと思います。同時に気づかせてもらったことは、コントロールの大事さです。

 ピッチングのすべてをコントロールに傾けるわけではなく、"ここぞ"という場面ではとくに重要だということです。この日は両投手ともそうした場面でコントロールミスがなかったので投手戦になりましたが、宮城が青木さんに打たれたボールは若干甘くなってしまった。

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