野村克也が好きだった「超二流」のヤクルトV戦士。土橋勝征が「怒られているのを見たことがない」

  • 長谷川晶一●取材・文 text by Hasegawa Shoichi
  • photo by Sankei Visual

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【土橋勝征が大好きだった野村克也】

――前回に引き続き、野村克也監督時代のV戦士のひとり、土橋勝征さんについて伺っていきます。前回は「野村監督も高く評価していた」という話題が出ました。

八重樫 野村さんが監督に就任した当時から、熱心に"野村野球"に取り組んでいましたからね。監督就任直後の"野村ミーティング"でも、熱心にペンを動かしていた姿を覚えています。野村さん自体も決して明るいタイプの人じゃなかったから、同じようなタイプの土橋のことも性格的に好きだったんじゃないかな。

ヤクルトの「いぶし銀」のセカンドとして活躍した土橋ヤクルトの「いぶし銀」のセカンドとして活躍した土橋この記事に関連する写真を見る――人間的に好感を持っていたのかもしれないですね。

八重樫 野村さんって、ものすごく観察力があるんです。口にしなくても、選手たちの動きを黙ってじっと目で追っている。だから「アイツ、手を抜いてるな」とか、「コイツは隠れたところでひたむきに努力しているな」とか、心の中で評価しているんですよ。でも、土橋は普段から黙々と練習するタイプで、熱心に「ID野球」を学ぼうとしていたし、性格的にも似ていたから高く評価していたんだと思いますね。

――多くの選手たちが「野村さんに叱られた」と口にする一方で、「土橋は叱られなかった」と聞いたことがあります。また、野村さんの著書の中でも、土橋さんを評して「野村門下の優等生」と書かれていたこともありました。

八重樫 確かに土橋が怒られているのは見たことがないです。広沢(克己)とか、池山(隆寛)に対しては厳しかったし、「アイツらクリーンアップなのに魅力がないな」とよくボヤいていたけど、土橋に対してはそういうことは聞かなかったですね。あと、前回も話したけど、守備でダブルプレーを取った時の土橋を評価して、「アイツはゲッツーでも逃げないよな」と言っていました。プレー面も好きなタイプの選手だったんでしょう。

――そういう選手がいると、他の選手にもいい影響を与えそうですね。

八重樫 野村さんは一時期、古田(敦也)に対して「チャラチャラしている」とか「謙虚さがなくなった」と酷評したことがあるんです。僕もよく野村さんから、「ハチ、お前からも古田に言っておけ」と言われていた。でも、それも一時期だけで、後に野村さんは古田をきちんと評価するようになりました。それは古田の努力を認めたからです。土橋のように黙々と練習し、試合でもさらに懸命にプレーするようになったんですよ。そういう部分は、多少は土橋の影響もあるんじゃないのかな?

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