セ・リーグ初のMVP捕手に聞く。「打てる捕手はいかにしてつくられるのか」 (2ページ目)

  • 中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Koike Yoshihiro

 坂倉は鈴木誠也のあとの5番を任されるくらい、首脳陣に打者としての力を買われている。対して捕手として見た場合、チーム防御率3.83はリーグ5位。今季のカープは523得点、566失点と、投手力の弱さを露呈してしまった。

 広島では同じく強打の會澤翼が2015年からメイン捕手として起用されてきたが、今季は左ふくらはぎの負傷などもあり、坂倉がマスクをかぶる機会が増えた。チームとしては苦しいシーズンをすごしたが、そうした経験を積めたことは、今後飛躍するきっかけになっていくはずだと中尾氏は指摘する。

「防御率が悪いのはピッチャーだけの責任ではなく、キャッチャーのリードも問われます。坂倉はレギュラーに近い存在として出場するのが初めてだったから、リードはすごく難しい部分があったはず。1年目からそんなに簡単にはできないものですが、今年の経験が来年以降に絶対生きてくる。それがチームの財産になっていくので、リードについては球団も目をつぶってきたと思います」

 "打てる捕手"がレギュラーに育てば、チームにとって大きな戦力になる。その代表格が、西武の森友哉だ。打力を生かすべく高卒3年目までは外野や指名打者で起用されることもあったが、5年目から一軍のメインキャッチャーを任されて、守備も向上していった。

 森が入団した頃、阪神のスカウトを務めていた中尾氏が振り返る。

「当時僕はキャンプも含めていろんな球団を見歩きましたが、森の1年目は、とくにキャッチングに課題があり、ワンバウンドのブロッキングも苦手でした。でも試合に出るなかで経験を積み、リードや守りがよくなっていった。もともと打撃センスがあったので、今は打てるキャッチャーとして本当によくなったと思います」

 森は正捕手をつかんだ2018年、打率.275と以前と比べて打撃成績を落とした。本人は「打撃と守備は別」と話していたが、リードの負担が多少なりともあったことは想像に難くない。

 そうした経験を踏まえた翌2019年には打率.329で捕手として史上4人目の首位打者に輝き、年間MVPに選ばれた。昨季は打率.251と自己ワーストの成績に沈んだものの、今季は打率.309でリーグ2位につけている。

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