ライバル→チームメイト→スタッフとして。榎下陽大が語る斎藤佑樹「野球の神様が味方についていた」 (2ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 細野晋司●写真 photo by Hosono Shinji

 僕、あの夏の甲子園、準決勝の早実との試合には先発していません。準々決勝(福知山成美戦)で延長10回を一人で投げ切っていたからです。だから僕は、ウチとの試合に斎藤は投げてこないと思っていました。僕と同じで、前日までの試合をほとんどひとりで投げていましたから......でも現実は、僕が休んでいるのに斎藤は投げている。一塁側のベンチから斎藤を見ていましたが、どこにそんな体力やスタミナがあるんだろうと驚きましたね。そんなに大きく見えないあの身体で、よくこんなボールが投げられるなと思っていました。

 結局、4回から僕もリリーフで出て、1打席だけでしたが斎藤と対戦もしました。あの時、初球の甘い変化球を見逃してしまったんです。なぜか手が出せなくて、「ああ、今のを打てばよかった」と思っていたら、真っすぐがドーンと......今までに対戦したことのないボールでした。シュルシュルシュルってキレもあるのに、ベース上では重さも感じる。ベンチからの斎藤は小さく見えたんですけど、バッターボックスに立ったら大きく見えました。淡々と投げてくるのにオーラに圧倒されるというか、闘志をむき出しにせずに向かってくるんです。力負けでした。

 斎藤がなぜすごいのかって、よく投球術とか言われますけど、バッターボックスに立った人にしかわからないオーラがあるからだと思います。ポーカーフェイスで淡々と投げ込んでくるのに、あのオーラ、気迫......大事なところだけピュッときて、あとはスーッと投げてくる。疲れていたはずなのにそれができるんだから、すごいピッチャーだなと思いました。

 あとは、あの青いハンカチですよね。よく覚えています。さわやかに、涼しげに、灼熱の甲子園で投げながらハンカチを出せるんですよ。僕ら「何でハンカチで拭いてるんだ」って......夏の甲子園ってホントに暑くて、全身、汗でビショビショになるんです。だからポケットに入れていたらハンカチもビショビショになっちゃうし、汗で濡れた顔を汗で濡れたハンカチで拭いて意味あんのか、アイツ、東京だからってなにをオシャレぶってんだよって思っていました。鹿児島の僕がハンカチを持っていたら「なんだ、あの田舎者」って言われたと思います。だから、早稲田実業の斎藤だからこそのハンカチ、鹿児島工業の榎下は手で拭きます(笑)。

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