ヤクルト雄平はなぜ引退試合後も練習を続けるのか。「今の自分の体がなくなってしまうことが怖い」 (3ページ目)

  • 島村誠也●文 text by Shimamura Seiya
  • photo by Koike Yoshihiro

 石井コーチに雄平のことを聞くと、いつも楽しそうに話してくれた。

「彼を支えているのは探究心ですよね。本当に毎日、毎日、飽きないのかと思うぐらいバットを振っています。遠征先の宿舎でも暇さえあればバットを振っている。雄平はあの年齢にして粗削りだらけ(笑)。そういう意味で可能性を感じさせてくれる選手ですし、『40歳でキャリアハイを目指そうぜ』という話をしているんですよ」

 衰えを知らない練習ぶりを見れば期待は膨らんだが、物事はうまく進まない。昨年はケガにも泣かされ43試合の出場にとどまり、今シーズンは春季キャンプから二軍生活が続いた。

 しかし雄平は、あきらめることも腐ることもなく、二軍の室内練習場で2時間もバットを振り続けた日もあった。打撃技術も今が最高だという手応えを感じていた。

「この1年は厳しい立場にあることは承知のうえで、そこからはい上がっていくんだという気持ちで過ごしていました」

 引退試合の日、雄平のフリー打撃が始まったが、ミスショットをした時の「アーッ!」という叫び声が聞こえてこない。

「今日は単純に絶不調で、打席のなかで試行錯誤してました(笑)。でもやっぱり、みんなと練習するのは今日で終わりなので、そこがいちばん悲しいですね。ひとりでも練習はできるんですけど、それはみんなとの時間があったからできたんだなと。とくにこの1、2年は、みんな後輩ですけど最高のメンバーとやらせてもらいました。すごくいい仲間にめぐり会えたことに感謝しています」

 戸田球場は打者・雄平の原点でもあった。2003年にプロ入りして、最初の7年間は投手としてプレー。制球に苦しみ、2010年に打者に転向すると、練習に明け暮れた。試合後に1時間の特守。それが終わればバッティングとウエイト。オフでも毎日1000スイングを繰り返した。

 その甲斐あって、打者転向後に積み重ねたヒットは868本。常に自らの伸びしろに期待して「練習にあきることはないですね」と、バットを振り続けた賜物にほかならない。

「これで終わりではあるんですけど、体はまだ動きますし、練習は継続していこうと思っています。でも、明後日からはみんなと一緒になって練習できないのが寂しいですね」

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