「こんなレベルのピッチャー」から豹変。ヤクルト荒木大輔の投球はピンチになるほど冴えた

  • 長谷川晶一●取材・文 text by Hasegawa Shoichi
  • photo by Sankei Visual

【ブルペンと試合とでは正反対の人間になる】

――歴代ヤクルト投手陣でいえば、気の強さやマウンド度胸で双璧なのは、安田さん、そして荒木さんですか。

八重樫 安田さんはピンチの場面でも「打たれたらしょうがないや」って上手に開き直ることができる。大輔も「逃げて打たれるなら、逃げずに打たれたほうがいい」と考えるタイプでしたから。いずれにしても大輔の度胸のよさはピカイチでしたね。

――ヤクルト入りした当時、実際に荒木さんのボールを受けてみた時の感想は覚えていらっしゃいますか?

八重樫 最初の印象は「何で、こんなレベルのピッチャーを獲ったんだろう?」と思いました。失礼だけど(笑)。そんなにコントロールがいいわけでもないし、真っ直ぐが速いわけでもないし。ただ、カーブに関しては「キレのいいボールを放るな」と、練習では思っていましたけど......。

――じゃあ、試合ではどうなんですか?

八重樫 ゲームに入ると豹変するんですよ。180度違う。まったく正反対の人間になるんです。これまで関わったピッチャーの中で、ブルペンと試合で、あそこまで人間が変わるピッチャーは大輔以外にはいなかったですね。

――具体的には、どのように変わるんですか?

八重樫 まず、ボールの勢いが違う。マウンドに立って、18.44m先にバッターがいると、一気にスイッチが入るんでしょうね。打席に相手バッターがいる時と、いない時とでは気持ちの入り方が違うから、ボールの勢いにも差が出るんでしょう。極端にスピードが上がるというわけじゃないですよ。でも、重さ、伸び、キレが格段によくなるんです。

――それは何でなんですかね? 一気にアドレナリンが出るんですかね?

八重樫 やっぱり、そのあたりが甲子園のスターたるゆえんじゃないのかな? 高校1年の時から甲子園のマウンドで、実戦的な場面で培われたものなんでしょう。ピンチになればなるほどその傾向は強かったですからね。

――荒木さんは小学生の頃、調布リトル時代にすでに世界大会で優勝投手になっていますからね。

八重樫 えっ、そうなんだ。だけど、それなら納得です。

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