ロッテ佐々木千隼「心が折れた時なんて何回もあった」。期待のドラ1が5年目の覚醒→初の球宴へ (4ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Sankei Visual

 インタビュー中、佐々木に自身の感覚について質問すると、何度も言葉に詰まるシーンがあった。こちらが差し出がましくも「こういう感じですか?」と補助しようとすると、佐々木はどんな些細なニュアンスの相違でも「それは違います」と否定して自分の言葉を探した。

 自己評価と他者評価のギャップに苦しんできたぶん、メディアがつくる安易なストーリーに乗りたくないという思いもあったのだろう。それは佐々木にとって、自分自身を守る手立てでもある。

 球速は相変わらず常時140キロほど。それでも、アウトコースにしっかりと集め、打者のバットを押し返す強さが出てきた。ストレートでカウントを取れるようになったことで、変化球がより生きる相乗効果をもたらした。

 だが、いくら結果を残しても、佐々木は満足そうな表情をまるで見せない。

「もっともっとスピードを速くしたいですし、コントロールをもっとよくしたい。今のままでいいとはまったく思っていませんし、今のままだとダメだと思うので」

 7月5日に発表されたオールスター戦のパ・リーグ出場メンバーのなかに、佐々木千隼の名前があった。故障者が続出したロッテ投手陣の救世主になった功績が、高く評価された。

 佐々木は都立校の日野高から新興の桜美林大を経て、プロ入りしている。大学時代は注目されるエリートを相手に、敵意むき出しで投球する姿も見られた。

 今回のオールスター戦では、日本球界を代表するエリートが一堂に会する。対抗意識はあるのではないかと尋ねると、佐々木は苦笑しながらこう答えた。

「うーん、ないですね。選ばれたのはうれしいですし、楽しむべき舞台なのかなと思うので。そんなに気にせずに投げられればと思います」

「ちはやふる」という枕詞には「荒々しい」という意味があるという。荒々しさが影を潜めたことで、佐々木の道が拓けたのは何とも皮肉に思える。だが、その一見軽やかに見えるフォームには、何度も絶望を味わった男の不屈の魂が宿っている。

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