ロッテ佐々木千隼「心が折れた時なんて何回もあった」。期待のドラ1が5年目の覚醒→初の球宴へ

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Sankei Visual

 プロ入り後の佐々木のつまずきを見て、筆者は大学4年時のフル回転が影響しているのではないかと感じていた。だが、佐々木はその見方を否定した。

「確かに疲労はたまりましたけど、ボロボロというほどではなかったです。試合前に柳(裕也/明治大→中日)とも『お互いに疲れているけど頑張ろう』と話していました。柳も同じように疲れていましたから(柳は4回2失点で降板)」

 ただし、佐々木はシンカーに頼った投球スタイルが、本来のストレートの威力を失わせる一因になったことは認めている。

「大学時代のコーチだった野村弘樹さん(元横浜)からもよく言われていたんです。『シンカーに頼ってラクして投げると、ストレートがいかなくなる』って。それはシンカーの弊害なのかなと思います」

 本人はプロでつまずいたもっとも大きな要因を「メカニクス」にあるととらえている。プロ入団直後のキャンプで、佐々木は「感覚がまったく別物になってしまった」と振り返る。

「ドラフト1位で獲ってもらって、メディアにも注目してもらえて、『やらなきゃいけない』という思いがネガティブな方向に出ていました。感覚のズレがあっても、いつもならそんなに気にしないで切り替えられるのですが、あの時は自分で自分にプレッシャーをかけすぎてしまいました」

 大学時代に最速153キロ、常時140キロ台後半をマークしていたストレートは、140キロ前後に落ち込んだ。プロ1年目は4勝7敗に終わり、2年目以降は右肩痛などの故障でさらに負の連鎖が続いた。

 2020年の春季キャンプ。北谷公園野球場で中日との練習試合に登板した佐々木を見て、愕然とした。かつて猛威をふるったストレートは球速も球威もなく、若手打者にいとも簡単に弾き返される。ストレートに怖さがないため、変化球もたやすく合わされる。ドラフト1位の面影はなく、一軍レベルには到底及ばない状態だった。

 佐々木は言う。

「肩をケガして、投げられないようになって、戻っても二軍でボコボコに打たれて......。心が折れた時なんて、何回もありました」

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