「オレが23年かけてできなかったことを...」。門田博光は阪神・佐藤輝明に嫉妬した

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Sankei Visual

「この子は開幕からずっと外野を守っていたでしょ。それが大山(悠輔)の故障によってサードをすることになった。内野の守備がまたうまいからビックリしたんやけど、オレはこのポジション変更がバットに影響してるんやないかと思っていたんや」

 どういう方向に話が展開するのかがわからず、曖昧にうなずいていると独自の理論を語り始めた。

「外野というのは、バッターまでの距離があるから全体を広く見ている。でも三塁手や一塁手は、強烈な打球が飛んでくるから1球1球グッと集中してボールを見ている。この見方の違いが、打席で影響しているんやないかと思ったんや」

 門田が続ける。

「集中していると、ボールがよう見えるからピッチャーの投げる球にも反応がよくなる。それでバットに当たる確率が上がるけど、その分、少しスイングが小さくなって、長打が減ってくる可能性もあるんやないかと考えとったんや」

 ポジションと打撃内容についての分析は初めて聞く話だった。ふと、王貞治や清原和博、中村紀洋や中村剛也といった一塁や三塁を守る長距離砲の顔が浮かび口に出すと、門田は「そうやないんや」と少し苛立った口調で返してきた。

「オレが言うてるのは、外野からサードやファーストへ移った時の話や。それも慣れたら問題ないやろうけど、外野で広くゆったり見ていたのが、いきなり1球1球集中して見るとなった時に......という話や。だから、大山が復帰してこの子が外野に戻ったら、またホームランを打ち出すんやないかと思っているんや」

 この話を思い出し、後日あらためて門田の見立てが当たっていたことを告げると「なっ、言うたやろ」と満足げな反応を見せたが、それも一瞬。やはり佐藤が1試合3本塁打を放ったことがよほど悔しかったのだろう。

「ほんまに、なんでオレが23年間できんかったことをルーキーができたんや......。オレがおったプロ野球の世界とは変わってしもうたんか」

 その佐藤だが、最近は苦しんでいる。7月に入ると開幕直後以来のスタメン落ちや、7月4日の広島戦では5打席連続三振を記録。このままいけば、年間200三振も現実味を帯びてくると報じられた。

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