「時代に逆行」なんかじゃない。中日・柳裕也は140キロ強の直球で、なぜ奪三振を量産できるのか (3ページ目)

  • 中島大輔●取材・文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Jiji Photo

 加えて、柳のストレートには独特の特徴がある。各球場に設置されているトラックマン(弾道測定器)のデータは非公表だが、彼の真っすぐは一般的な投手よりホップ成分が多く、打者には"浮き上がる"ように見えると言われる。

「はい、自分で言うのもアレですけど(笑)。ホップ系のストレートという特徴がありますね」

 こうした各球種を、精密なコントロールで低めに投げ分けることが柳の特徴とされてきた。そこから今季は一歩進み、配球にバリエーションを増やしている。その裏にあるのが、2019年に就任した伊東勤ヘッドコーチのアドバイスだった。

「ヘッドが中日に来た1年目のキャンプで、『お前は高めを使え』と言われました。でも、なかなか使えていなくて。トラックマンのデータを見ると、確かに高めが有効とされます。キャッチャーの木下(拓哉)さんと話して、今年は思い切って高めにカットや真っすぐを投げるようにしています」

"えぐい"配球を見せたのが、6月25日の広島戦で3回無死、9番投手の玉村昇悟に対する場面だった。初球は外角高めに143キロのストレートでストライクを奪うと、次に外角高めからスライダーを落として振らせ、3球目は同じコースにシンカーを投じてバットに空を斬らせた。

 球種で揺さぶるばかりではない。ボールを長く持ったり、クイックを織り交ぜたり、打者の間合いを絶妙にずらすテクニックも駆使している。

「最近は打者を見ながら投げられるようになりました。キャッチャーミットを見ながら打者が足を上げるタイミングをぼやーっと眺めて、フォームを一瞬だけ遅らせることもできるようになってきました。そういう器用さも自分の特徴だと思います」

 2020年、プロ野球投手の平均球速は約144キロまで上がった。142.4キロと平均未満の柳が誰より三振を奪える背景には、一流の投球テクニックがあるのだ。

 160キロでねじ伏せる豪腕も魅力的だが、140キロ強でバットに空を斬らせる柳も同等以上の輝きを放っている。

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