阪神・青柳晃洋の投球に凡打の打者は「?」。ミステリアスな投手のここがすごい! (2ページ目)

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • photo by Koike Yoshihiro

 とにかくレギュラー捕手がまともにミットの芯で受けられない。激しくボールが動いているのが、捕手のつらそうなキャッチングを見れば一目瞭然である。指名リストに挙げていた西村の降板で、帰り支度をしていたスカウトたちが再び席につき、青柳のピッチングに目を奪われていた。

 緊急登板にもかかわらず、青柳は慌てる様子もなく、淡々と後続を抑え込んだ。この日の観戦メモにはこう記してあった。

<青柳は、体は細いが柔軟性、球持ちは抜群。打者の手元で激しく変化する球質は、正確なミートが困難。サイドハンドでこれだけ強烈なボールを投げられる投手は希少。プロの食事とトレーニングでパワーアップすれば、とんでもない投手になる>

 試合が終わり、引き上げてくる選手のひとりがこんなことを言っていた。

「西村のボールは手のひらが腫れ上がるけど、青柳のボールは指がひん曲がってしまう」

 指先を離れたボールと一緒に、右腕も吹っ飛んでいきそうなほどの強烈な腕の振り。今もその腕の振りは青柳の強烈な武器となっている。だからこそ、140キロ台前半のストレートでも打者を押し込めているし、それと同じ軌道で微妙に変化するツーシームも生きてくるのだろう。

 わかりやすい曲がりをしないからこそ、打者はどう打ち損じたのかが検証できない。つまりは対策を立てられないというわけだ。

「150キロ出なきゃプロの投手じゃない」

 いまプロ野球界にはそんな声も聞こえてくるが、青柳の活躍はそんな風潮に一石を投じたのではないか。スピードに頼らなくてもプロで生き抜く術を知っている。これぞ正真正銘のプロの投手である。

 この打てそうで打てない青柳のボールは、東京五輪でも威力を発揮してくれるはずだ。

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