2021.06.07

プロ野球史上、唯一無二の美しさ。金城基泰が語る、あのアンダースロー

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki

 無名校の選手でも、法政大への進学が決まりかけていた。中学時代と同様、当時の松永怜一監督の前で投球を披露する機会を得ると、それだけで即ベンチ入りが期待されるほどだった。ご本人が謙遜し続けているだけで、潜在能力は相当に高かったのだろう。

「入れると思ってないのに『本当に来るなら獲るよ』と監督に言われて、もう有頂天ですよね。それがどうなってカープに入ることになったのか、全然わからんけど。ふふっ」

 いたずらっぽい笑みが浮かんだ。じつは、プロ12球団のスカウトが金城さんに視線を送っていた。いちばん熱心なのはヤクルトだったが、ドラフトで指名したのは広島だった。しかし法政大しか頭になかった金城さん。「断っておいて」と父親に言ったのだが、息子に向かって父親はこう言って諭(さと)した。

「そんな失礼なことをしたらあかん。断るんやったら、相手の顔を見て、自分の口でまず謝れ。それでおまえが自分で断ってこい」

 断りを入れる相手は、「スカウトの神様」と呼ばれた木庭教(きにわ さとし)スカウト。断るためだけに会うはずが、面会は一度で終わらなかった。木庭スカウトはこんなふうに口説いた。

「大学に行ってどないすんの?」

「大学行っとかんと。別に、大学行ってどないするわけでもないけど」

「大学に行って、プロ行くんやろ?」

「僕は別に行きませんよ」

「いやいや、十分できるから。もしプロを考えるんやったら、バッターなら大学で4年間やったらいい。野手ではなかなかすぐに出られんから。でもピッチャーは消耗品やから、4年間、毎日、投げさせられて、肩壊したらどうにもならんぞ。プロ入ったほうがええ」

「プロ入って、できるんですか?」

 いつの間にか、名スカウトの話術でその気にさせられていた。金城さんは言う。

「うまいですよね、そのへんが。『もう行きません』『わかった』って言いながら、また電話かかってきて『時間あるか?』って。何回、会ったか、わからないですね」

 評価がそこまで高かったのは、ボールの威力が飛び抜けていたからなのだろうか。