プロ野球史上、唯一無二の美しさ。金城基泰が語る、あのアンダースロー (2ページ目)

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki

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 新大阪に着いたところで電話を入れるように言われていた。第一声、「そら、遠いわあ」と金城さんは言った。低音が響くしゃがれた声で、ご自宅に近い大和路線の駅までかなりの時間を要することを教えてくれた。初めての会話なのに朗らかで、人懐っこい口調で、話しているだけで愉(たの)しくなった。

 大阪駅から環状線、天王寺で乗り換え、3つ目の加美駅で降りる。改札がある橋上駅舎の通路は狭く、現役時代と違う短髪でも面長の風貌ですぐわかった。金城さんも気づいてくれて笑顔で挨拶を交わし、案内されるまま南口へ降りた。ランチタイムでも静かな商店街を歩きながら僕は取材主旨を説明し、金城さんの連絡先になかなかたどり着けなかったことを付け加えた。

「そんなん、球団に電話してくれたらよかったのに。カープは今も昔と変わらずちゃんとしてくれるし、広島の町も、いつ行ってもよくしてくれます。家庭的っていうのか、郷土愛がすごい。ええとこですよ、広島は」

 広島の話題が出たところで、外木場義郎(そとこば よしろう)、安仁屋宗八(あにや そうはち)、長谷川良平──、過去に取材したOBの名前を挙げていった。すると金城さんは素早く反応した。

「長谷川さんは僕がまだ若いときにピッチングコーチで来られてね、ケンカしたことある。まあ、ケンカっていうか......、ふふっ」

 長谷川コーチは現役時代、広島球団創設1年目からエースとして活躍し、通算197勝。身長167センチで[小さな大投手]と呼ばれ、監督も務めた。それだけの指導者と衝突した経験があり、その思い出を笑いながら話すあたり、人間としてのスケールの大きさを感じる。5分ほど歩いて商店街の通りを抜け、お知り合いが営む喫茶店に到着した。

 金城さんと同年代とおぼしきマスターは意外にも「巨人ファン」で、取材で来たことは承知していて、席に着くなり「今回、広島が100年ぶりのアレやから?」と言われて笑うしかなかった。もちろん大阪にも巨人ファンはいるわけだが、こんな冗談を言う巨人ファンは東京にはいなさそうだ。

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