ヤクルトに浸透する「青木イズム」。稀代のヒットメーカーが姿勢で伝えてきたこと

  • 島村誠也●文 text by Shimamura Seiya
  • photo by Koike Yoshihiro

 その後、畠山は2019年まで現役を続け、今は二軍打撃コーチとして若手の指導にあたっている。青木に励まされ、すぐにあきらめなかったことが今の職につながったはずだ。

 そしてヤクルト復帰1年目のシーズンが開幕すると、青木の存在感は日増しに大きなものとなっていく。

「声を出さずにはいられないんだよね」

 勝負の趨勢が見えても、グラウンドやベンチで声を張り上げる青木の姿は、ここ数年のチームにはなかった風景だった。この年のシーズン終盤、青木はこのように語っていた。

「96敗もすれば、みんな自信をなくすに決まっているし、"今日"という日が訪れるのが億劫だったと思うんです。僕はそこを前向きにしようとしただけの話です。開幕した頃と比べれば心のブレはなくなっていますし、みんなから『よし、今日もやってやるぞ!』という姿が見える。やっぱり勝つことって自信になるんです」

 そしてチームとして見た時の"野球"と"ベースボール"の違いについて聞くと、「まったく違いますね」と言い、こう続けた。

「日本は組織を大事にして団体で動きます。そこはすごくいいところですが、だからこそアメリカのように、もう少し個の部分を大事にしてもいいのかなと。一概にどっちが正しいかはわかりませんが、僕としては組織と個をうまく融合できればと思っています」

 首脳陣と選手の間に絶妙なバランスで立っていた青木に、宮出隆自打撃コーチ(現・ヘッドコーチ)は全幅の信頼を寄せていた。

「自分に影響力があることを感じながら、ベンチで積極的に声を出したり、選手へのアドバイスをしたり......たとえば、バレンティン(現・ソフトバンク)に元気がない時、いいタイミングで声をかけたりしてくれている。同僚から激励されるとうれしいものだし、コーチから言われるのとはまた受け止め方が違いますから。言葉はよくないかもしれませんが、コーチである僕らも青木に頼る部分はあります」

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