2021.05.24

荒木雅博が断言「イップスになったら、野球をやめるまで治らない」

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Sankei Visual

 だが、荒木はそんな自身の性分も肯定的にとらえている。

「背負い過ぎてしまうことを『普通』にしてしまえば、それはもう普通ですから。そうしたら、投げられないことも『普通』になるわけで。あとは普通のところから頑張っていこう、と考えられますからね」

 イップスの研究は日米を中心に徐々に進んでいるものの、いまだに不明点が多く、科学的なエビデンスに基づいた指導体系は確立されていない。荒木も指導者から「気持ちの問題」と言われた以上、自力で対処法を探すしかなかった。

 そして、荒木は「基本に戻るしかない」という結論に達する。使い古された表現だが、荒木の言う基本とは、「野球を始めた頃までさかのぼったうえでの基本」だった。

「ボールを上から投げ下ろす、というキャッチボールの最初からやり直しました。フォームの細かい部分について『腕の使い方はこうで、足の使い方はこうしろ』と言われても、絶対に直りませんよ。みんな昔はできていたわけですから、最初から取り戻したほうが早いのかなと。もちろん合う、合わないはあるので、あくまで僕の場合ですけどね」

 毎日同じキャッチボールパートナーと組み、1球1球「今のボールの回転はどうでした?」と尋ねる。荒木は「野球をやめるまでずっと、回転を気にしながらやっていました」と明かす。

「きれいなタテ回転をしていないと、ボールは真っすぐいかないので。ちょっと横から投げたときはシュート回転が強くなるんですけど、あまりにも体から手が離れすぎるとシュートの度合いが強くなってくる。故障の原因にもなるので注意していました」

 しかも、荒木には右肩痛という難点もあった。右肩に負担の少ない投げ方を模索すると、腕の振りは自然と横振りになっていった。この横振りこそ、難易度の高い投げ方なのだと荒木は言う。

「横から投げるのって怖いんです。引っかけすぎたり、抜けたりすれば思い切り左右にブレますからね。単純に上から振り下ろす投げ方なら、ボールは上か下しかいかないので、左右にはブレません。『下に投げておけば、最悪なんとかなる』という考えになるんです。だから自分の投げやすい位置を見つけることは、とても根気がいりました」