荒木雅博が断言「イップスになったら、野球をやめるまで治らない」 (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Sankei Visual

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 何の変哲もない、正面のセカンドゴロに荒木は苦しんだ。足が止まり、近距離の一塁に向かって腕だけで投げる横着を覚えると、いつしか山なりでもボールが投げられなくなった。一塁に近い打球を捕った後に左肩を入れる動作がないことも、ボールが抜ける原因ではないかと荒木は見ている。

 セカンドがショートスローをするのは一塁だけではなく、二塁ベースに投げることもある。時には「アライバコンビ」のパートナーだった、ショートの井端弘和に迷惑をかけることもあった。だが、たとえ悪送球を投げたとしても、井端から苦言めいた言葉をかけられることはなかったと荒木は言う。

「井端さんへの申し訳なさはありました。井端さんはよく『俺はこうやったらいいと思うよ』とアドバイスをくれましたから。あぁ、考えてくれてるんだなぁ。申し訳ないなと。イップスって、すごく孤独感を覚えるものなんです。そんなときに周りから『こうやってみたら』と言ってもらえると、一人じゃないと思える。仮に言われたことをやって失敗したとしても、『じゃあまた別の方法を試してみよう』と思えるじゃないですか。やっぱり声をかけてもらえるのは、すごくありがたいことですよ」

 イップスとは孤独感を覚えるもの──。その言葉の裏には、何事も背負い込みやすい荒木の性分が見え隠れする。

 イップスに苦しんでいる時でも、誰かに愚痴や弱音を吐くことは皆無だったという。「そこらへんの我慢強さだけはあったので......」と荒木は笑うが、選手生命を脅かす悪魔と一人で対峙する恐怖は想像を絶する。荒木はなかば投げやりとも取れる口調で、こうも語っている。

「自分で自分を追い込んでしまった部分はあったかもしれません。もっとラクな生き方はあっただろうな、とは思います」

 自分に不利益なことがあれば、だれかれ構わず大げさに訴える人間もたくさん見てきた。そんな人々を否定も肯定もしないが、荒木は「これが僕の性格なんでしょうね」と生き方を変えることはなかった。

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