阪神ドラ2左腕・伊藤将司は「ケタ外れのメンタル」。スピード全盛時代でも脱力投法を貫く (3ページ目)

  • 菊地高弘●取材・文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Sankei Visual

 どんな大事な試合でも飄々(ひょうひょう)と投げ、抑えてしまう。それは高校、大学、社会人、さらにプロに舞台を移しても変わらなかった。

 JR東日本関係者の証言を本人にぶつけてみると、伊藤は少し言いにくそうなそぶりを見せてからこう答えた。

「それは『こいつ、大事な試合ってわかってないだろう?』というところもあるのかな......と思うんです」

 にわかには理解しがたい言い回しだった。つまり、大事な試合だからといって自分自身を精神的に追い込まないようにしているということか。そう確認すると、伊藤は首を縦に振ってこう答えた。

「追い込んでないです。そういうところが逆にいいのかなと」

 今までの野球人生でいちばん精神的に追い込まれた試合を聞くと、伊藤はこの日のインタビューで最も長考した上でこう答えた。

「そうですね......、さすがに去年の都市対抗予選の初戦なんかは、ちょっとは追い込まれたかもしれませんね」

「ちょっとは」という部分に、少しでもオブラートに包もうという伊藤の謙虚さが滲んでいた。甲子園だろうと、大学選手権だろうと、都市対抗であろうと、常にいつもどおりマウンドに上がる。その姿勢はプロに入っても変わらなかった。伊藤は少し申し訳なさそうに、こう言った。

「あまり深く考えないようにしてます」

 常人には理解しがたい、つかみどころのない言動は、そのまま彼のピッチングスタイルにつながっていく。もし、仮に伊藤が気合いを入れてマウンドに上がったとしたら、打者は逆にタイミングを合わせやすいのではないだろうか。

 今後の自分の課題を聞くと、伊藤はこう答えている。

「今は結構状態がいいので、できることをしっかりとやること。あとはこれから絶対に調子が悪い時がくるので、そこでいかに最少失点で抑えられるかを考えてやっていきたいです」

 インタビューの2日後(5月15日)、東京ドームでの巨人戦に登板した伊藤は、プロに入って初めて敗戦投手になった。3対2と1点リードで迎えた5回裏。二死無走者から連打を浴び、ジャスティン・スモークに甘く入ったカットボールをレフトスタンドに運ばれた。それでも、気持ちの揺らぎを見せずに6回まで投げ切ったところに、伊藤のルーキーらしからぬ仕事ぶりがうかがえた。

 阪神の新人が開幕から3連勝を飾ったのは、37年ぶりの快挙だった。だが、連勝が止まろうと、伊藤の投球が変わることはないだろう。伊藤はこんな言葉も残している。

「今は自分が任されているところはしっかり投げよう、というくらいの気持ちですね」

 脱力系左腕・伊藤将司。肩の力が抜けている今の姿が、他球団にとって最も怖い状態のはずだ。

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