高橋慶彦が選ぶスイッチヒッターベスト5。「オレは実験台だった」 (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Sankei Visual

3位 高橋慶彦(実働期間:1976〜92年/元広島ほか)

 すみません、オレです(笑)。日本人で初めて3割を打ったスイッチヒッターということで、ご容赦ください。オレがスイッチヒッターになった後、次々にスイッチ転向する打者が出てきましたよね。古葉さんも山崎隆造や正田耕三(ともに元広島)がスイッチになったのは、オレが成功したからだと言っていました。

 オレは野球を始めた9歳から19歳まで、左打席でバットを振ったことは1回もなかった。「転向するのは大変だったでしょう?」とよく聞かれるけど、オレは「誰でもできる」と答えるんです。

 人間の能力はただ開発されていないだけで、誰しもすごい力が眠っています。オレは左打席をマスターするために、とにかく数をこなしました。右打席で振ってきた10年分の量を1年で振ってやろうとね。そうやって振っているうちに、「右の時は筋肉をこう動かしているから、左の時はこうか......」とピタッと感覚がつながる瞬間がくる。

 オレは左手で箸を持ったことがなかったけど、スイッチヒッター転向後は、訓練せずとも左手でも使えるようになりましたからね。人間はそれだけの能力をもともと持っているということ。その能力を開発するには、数をこなすしかないと思う。

 サッカー選手にも利き足はあるけど、「左足では蹴れません」なんて選手はいないじゃないですか。必要に迫られて訓練すれば、誰だって使えるようになる。スイッチヒッターも一緒ですよ。

2位 松井稼頭央(実働期間:1995〜2018年/元西武ほか)

 本当はオレを1位にしたかったのだけど、そういうわけにはいかない(笑)。総合的なバランスを考えたら松井稼頭央のほうが上だと思います。

 稼頭央はショートという難しいポジションをうまくこなしながら、トリプルスリーを達成してMLBまで行ってしまった。あの強肩をもってしてもMLBで苦労したのだから、日本人内野手がアメリカで成功するのは難しいな、と思ってしまいますよ。

 稼頭央のバランスのよさは、スイッチヒッターになった影響もあるんじゃないかと感じます。スイッチに転向すると、右脳と左脳がつながる感覚があって、視野が広がるんです。

 ショートを守っていても、打者が打った瞬間「外野の位置がここで、ランナーの足の速さはこうで、点差はいくつで、風の向き、地面の状態......」と0コンマ数秒でパッと浮かんでくる。ヘッドアップディスプレイに瞬時にさまざまな情報が映し出される、あの感じかな。

 おそらく稼頭央も同じような感覚を持っていたんじゃないかと思うんですよ。

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