DeNA関根大気が誇る「パワフルな母」との物語。40歳で教員免許、現在はクレープの移動販売 (3ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Sankei Visual

 美華さんがクレープ店を始めるにあたって、関根が何気なく口にした「俺でも食べれるクレープをつくってよ」という言葉を実現したのだ。関根は「生地がモチモチしていて好きなんです」と絶賛する。店名の『Delicioso』はスペイン語で「おいしい」という意味だ。

 関根は今年1月に結婚している。今後、どんな家庭を築いていきたいかを尋ねると、視線を少し宙に泳がせてこう語った。

「野球選手をやっている限り、家族と過ごす時間はどうしても限られてしまうんですけど、できる限り奥さんをはじめ、家族との時間を増やしたいと考えています。もしこれから子どもを授かったとしたら、いろんなことを共有したいですね。僕自身は父と暮らした記憶がないので、『父』という存在自体が初めての経験なんですけど」

 インタビューした4月27日は、じつは関根が一軍登録を抹消された2日後だった。

 関根の練習量はチーム内でトップクラスと言われる。雌伏の時を越え、ようやくチャンスをつかんだに見えたところでのファーム落ち。深い失望に包まれても不思議ではない。それでも、関根は暗いそぶりを一切見せることなく取材に応じてくれた。

「人間は悲しんでも仕方ないとわかっていても、悲しんでしまうことってあると思います。でもファームに落ちても、僕には後ろを向く時間はありません。応援してくれる人にどうやって喜んでもらえるかといえば、まずは最短で一軍に上がること。そのためにどう行動するかが決まってくるので。自分にとっていい時はもちろん、逆境の時にこそ周りの方々から力をもらえているなと感じます」

 そして、関根は冗談めかしてこう続けるのだった。

「僕にはあっちのお母さんやこっちのお母さんと、支えてくれる人がたくさんいますから」

 ナイスガイだからといって活躍できるわけではない。すばらしい家族やサポーターがいるからといって成功できるわけでもない。だが、こんな野球選手に成功してもらいたいと願わずにはいられない。関根大気の2021年は、まだ始まったばかりだ。

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