監督に暴行、教師を妊娠...ネットでのデマ、中傷に負けず泉正義が野球を続ける理由【2020年度人気記事】 (4ページ目)

  • 菊地高弘●文・写真 text & photo by Kikuchi Takahiro

 泉はこれまで、取材の依頼を断ることが多かったという。理由は「まだチームを立ち上げたばかりで結果も出ていないから」。だが、今ではその判断は間違いだったと感じている。

監督の泉正義が期待を寄せる櫻井ゆーや監督の泉正義が期待を寄せる櫻井ゆーや「この子たちのことを知ってもらいたいんです。取材を受けて、彼らのことを宣伝してやればよかったなって」

 泉はOBを含め、教え子について嬉々として語り始めた。

 身長130センチ台でなかなか打撃の結果が出なかった努力家の選手が、中学最後の試合でヒットを放ち、高校でも野球を続けると言ってくれたこと。

 食べることが好きな巨漢の選手にヤクルト時代から恩人と慕う岩村明憲を介して九重部屋への入門を勧め、厳しい世界で頑張ってくれていること。しこ名は「千代泉志」といい、泉の一字がとられていること。

 なかでも口調に熱を帯びたのが、新2年生の櫻井ゆーやの話題だった。櫻井は両親ともタイ国籍で、本人は日本で生まれ育っている。身長174センチ、体重89キロのたくましい体で、太ももの厚みは目を見張る。

 小学生時は力任せにプレーしていた櫻井だったが、泉の指導を受けてから才能が花開きつつある。投げては最速130キロを超え、打っては中学通算11本塁打をマーク。練習中のロングティーではレフトまで91メートルのグラウンドでサク越え弾を連発した。豪快かつ角度のあるスイングは中学生とは思えなかった。

「今まで13年指導者をしていますけど、素材は一番ですね」

 そう語る泉だが、指導者としての目標はプロ野球選手を育てることでも、全国大会で優勝することでもない。泉は「ヤンチャだった自分が、今さらなに言ってるんだと思われるでしょうが」と苦笑しつつ、こう語った。

「これは選手や保護者にも言っていますが、最高学年の選手は絶対に試合で使いたいんです。たとえ勝てなくてもいいので、『野球が楽しい』という感覚でやってもらいたい」

 試合に出るからこそ野球は楽しく、試合に出ることで責任が芽生える。最上級生全員を試合で起用するため、1学年あたり10人程度の選手数が理想。泉はそのように考えている。上級生が優先的に試合に使われることで、実力のある下級生から不満が出ないのか。下級生の櫻井に問うと、こんな答えが返ってきた。

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