日本の各球団が外国人選手を育成枠で獲得。先駆者・森繁和がその意図やからくりを語る

  • 中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Sankei Visual

 ついに国技の野球リーグを始められないほど追い込まれ、キューバは日本にSOSを発信した。中日やソフトバンクなど同国とゆかりある球団がすぐに援助し、無事に開幕を迎えることができた。そのお礼として「連れていってくれ」と言われたのが2017年、中日の育成選手として年俸1000万円でやって来たライデル・マルティネスだった。森氏が振り返る。

「協会に年俸の何割を支払わないといけないとか、ほかにも選手を連れて行くといった条件があった。『日本の球団は投手や内野手、外野手ばかりで、キャッチャーを求めるところはなかった』というところに、ちょうどオレがあるキャッチャーの名前を出したのよ」

 谷繁元信が2015年限りで現役引退して以降、中日はレギュラー捕手を決められずにいた。自チームにいないなら、外国から獲得すればいい。メジャーリーグに目を向ければ、中南米出身の名捕手が数多くいる。日本でも1960年頃までさかのぼれば、外国人捕手は決して珍しくなかった。

「バッティングがよくて、肩が強いキャッチャーがキューバにいるなら、日本に連れてきて使ってもいい。オレもピッチャーだったからわかるけど、キャッチャーが言葉を話せなくてもなんとかなる。それでアリエル・マルティネスを連れてくることになったんだ」

 ライデルが来日した翌年の2018年、アリエルも育成契約で日本にやってきた。ライデルが同年支配下登録され、翌シーズンからクローザーになった一方、アリエルは二軍で実戦機会を重ねる。森氏が描いたプランだった。

「キャッチャーで使えない時にはファーストやDHでもいいから、まずは打席に立たせてくれと言った。当時の中日は、今みたいに決まっているキャッチャーがいなかったし、誰かがケガをした時、育成から上げればと。それがうまく活躍してくれてよかったよ」

 アリエルは2020年7月1日に支配下登録され、2日後、ソイロ・アルモンテの故障に伴い一軍昇格する。すると代打で出場し、7月4日の巨人戦で日本球界では20年ぶりの外国人捕手として出場した。39試合で打率.295と持ち味の打力を発揮し、代打やファーストでも起用された。

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