渡辺久信は退寮を求めて根本陸夫に直談判。「正攻法ではダメ」と強行策に出た (2ページ目)

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki
  • photo by Sankei Visual

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 だが、そこまできっぱり拒否されると、どうしても出たいという気持ちが湧き上がってくる。いったん寮に帰った渡辺は、思案して行動を起こすことにした。

「もう1回、根本さんのところに行こうと決めました。二度目のチャレンジじゃないですけど。ただ、普通に行っただけでは、たぶん答えは一緒だな、と思ったんです。それで何か寮を出るための秘策はないかな、と考えている時に、マンションを買っちゃえばいいんだ、と気づきました。賃貸を借りるのは誰もがやることなので、これはもう買うしかないと」

 決断した渡辺は「とにかくマンションを買いたいんで」と不動産会社に依頼。1週間で条件に見合った物件を探し出し、東京の多摩地区にあるマンションを購入した。そうして再び、手土産を持って根本の自宅を訪ねた。

「マンションを買いました。そこは又貸しできない物件で、契約した人がオーナーとして入居しないといけないんです。だから出してください」

 しばらく黙ったあと、根本が言った。

「ナベ、おまえ、考えやがったな!」

「正直に言います。考えました」

「じゃあ、もういいよ。出してやる」

 根本は半ばあきれている様子だったが、すぐさま寮から出ることを許された。渡辺としては、「買ってしまえば絶対に出してくれる」という確信に近い思いもあった。

「根本陸夫という男は、普通に、正攻法でいったらダメなんです。私は入団してからの4年間でそういうふうに感じていたので、その時も、ストレートじゃなくてスライダー気味に入っていったんですね(笑)。だから出してくれたんだ、と思います」
 
 必要以上に親密にならず、距離を置きながらも、渡辺は根本の気質を洞察していた。そのうえで頭を使い、この人はどういう攻め方でいけば攻略できるか、考えて答えを出した。根本から特に多くを教わることはなかったが、この時の経験から、何事も工夫が必要で、いろいろな物の見方をしたほうがいい、と学んだ。

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