斎藤佑樹「野球をやめなきゃいけないのか」。引退が頭をよぎり、重要な選択を迫られた (4ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Ichikawa Mitsuharu(Hikaru Studio)

 翌朝、斎藤を衝撃が襲う。

 右ヒジが痛くて、歯を磨くのもシャンプーをするのも辛いのだ。ある角度にヒジを持っていくと激痛が襲う。今までの張りが抜けない感覚とは明らかに違っていた。

 これはおかしい。

 悩んでいる場合ではないと覚悟した斎藤はドクターの診察を受けることにした。するとそこで、最悪の事態が待ち受けていた。

 右ヒジの靱帯が断裂している──。

その診断を聞いた瞬間、斎藤の脳裏を"覚悟"がよぎる。

「ああ、ここまでか、と思いました。野球、やめなきゃいけないのかな、と......」

 斎藤は瞬時にいくつもの選択肢を思い浮かべた。もし野球をやめるとしたらどうするのか、続けるとしたらどうすればいいのか。そして、ドクターにこう問いかけた。

「先生に『どうしたらいいですか』と訊いたんです。そうしたら、いくつかの選択肢を出してくれました。トミー・ジョン手術もありましたし、今回の新しい治療法もあったんです」

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 切れている靱帯を再建するにはトミー・ジョン手術しかない。しかし、この手術をすると1年以上のリハビリが必要になる。今の斎藤にそれだけの時間的猶予はない。ならば手術をせずに靱帯を再建する方法はないものか......じつはそんな模索が医学の世界でも始まっていた。

 斎藤が行なったのはPRP療法だと言われているが、それは正確ではない。PRPとは血液中の多血小板血漿のことで、傷んだ組織を元通りに治そうとする自己治癒能力を高める働きをしてくれる。

 過去、ヒジ痛に悩まされた田中将大や山口鉄也がトミー・ジョン手術をせず、PRPによる保存療法でヒジの靱帯損傷からの復帰を果たしてきた。斎藤も自身の血液からPRPを採取、それを注射したのだが、今回の治療のメインはPRP療法にはなく、もっと根本的な靱帯の治癒メカニズムを生物学的に呼び覚ますところにあるのだという。

 まずは自己治癒能力を邪魔しないための患部の固定、そして成長ホルモンを分泌させるための効果的な睡眠、さらには靭帯の再生に必要な材料であるコラーゲンを再合成するための必要な材料(アミノ酸、鉄、ビタミンC、亜鉛などの栄養分)の補給──そこにプラスアルファ、成長因子としてのPRPを注入する。

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