野村克也が「日本一のスコアラー」と絶賛。「犬猿の仲」安田猛を認めていた (2ページ目)

  • 長谷川晶一●取材・文 text by Hasegawa Shoichi
  • photo by Sankei Visual

【2019年、ドリームゲームで見せた最後の雄姿】

――そう考えると、2019(令和元)年に行なわれた「スワローズ・ドリームゲーム」で、満員の神宮球場でファンが見守る中、久しぶりにヤクルトのユニフォームを着てマウンドに立てたのは、本当によかったですね。

八重樫 安田さんはあの日も、本当はかなり体調的につらかったはずです。当初の予定では「1イニングを任せたい」という話だったけど、本人が「ひとりにしか投げられない」と言っていました。でも、マウンドからホームまでボールが届かない。だから、池山(隆寛)相手にマウンドの前から2球だけ投げて降板したんです。あの状態で、よく投げたと思いますよ。

――3塁側ベンチ前で、同い年で、ともにV1戦士である若松勉さん、松岡弘さんが出迎えている姿は、とても感動的でした。八重樫さんが安田さんにお会いしたのは、あのOB戦が最後ですか?

八重樫 あのOB戦の後、去年のOB会の総会で会ったのが最後でした。会うたびにやせて、目が落ちくぼんでいました。病気のことは聞いていたから「かなり悪いのかな?」と心配で、「大丈夫ですか?」と聞くと、「大丈夫だよ、オレは」と笑って答えてくれました。僕は参加しなかったけど、OB会のゴルフコンペにもよく顔を出していたそうです。自分はラウンド出来なくても、みんなの顔を見たかったのかな。

――ますます、あの日のドリームゲームが意味のあるものになりますね。

八重樫 そうですね。「もう一度ユニフォームを着たい」という思いも叶ったし、大勢のお客さんの前でマウンドに立つ姿も見せることができて、ファンにも最後のお別れができたわけだし......。ずっと雨が降っていたけど、野村さんにとっても、安田さんにとっても、いい思い出になったんじゃないでしょうか。

――普段は杖をついていて歩くのもしんどそうなのに、あの日は始球式に登場する時も、マウンドに上がって、降りる時にも、杖を使わずに自分の足で歩いていらっしゃる姿は本当にカッコよかったです。

八重樫 それも安田さんの意地だし、「お客さんの前ではきちんとしたい」というプロ根性だったんだと思いますね。安田さんは、そういう人でしたから。

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