巨人・戸郷翔征は桑田コーチの指導をどう思っているか。「先発完投135球」と「ライン出し」

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ichikawa Mitsuharu(Hikaru Studio)

 基本的に中6日でローテーションを回す日本のプロ野球では、回復する時間が十分にあると桑田コーチは考えている。先発投手には1イニング平均15球を9イニング、つまり1試合135球を投げられる能力を求めている。100球前後で先発投手が降板する現代の日本球界の風潮に、一石を投じるアイデアだった。

 戸郷はその桑田コーチの意図をなぞるように、今春のキャンプ3日目にはブルペンで135球を投げ込んでいる。本人は「投げる体力をつけるため」と狙いを語った。

「試合より多く投げたほうが、もっと楽に投げる投げ方を覚えますし、いいフォームを覚えられますから」

 キャンプ期間中の全投球数は数えていないものの、昨年より多く投げ込んだ実感があるという。

 だが、桑田コーチの「先発完投135球」というアドバルーンが上がったからといって、戸郷は「あまり意識に変化はありません」と明かす。なぜなら、昨年までも「先発完投」への強い意欲を持っていたからだ。

「先発する以上は完投したい思いが強いので。どうしても最後まで投げたい、という思いは去年から変わらず持ち続けています。中継ぎの人たちにとってもありがたいでしょうし、完投は目標ですね」

 昨季19試合に登板して、9勝6敗と好成績を残した戸郷だが、9イニングを投げた試合は一度だけ。11月3日の広島戦だった。

 この試合は戸郷にとって、痛恨の記憶として強く刻まれている。9回二死まで無失点に抑え、完封勝利は目前だった。そこで戸郷は菊池涼介に同点2ランを浴びてしまう。

「いいピッチングをしていても、最後まで投げて勝ち切れなければ納得はいきません。それと去年は『7回の壁』というものもあったので。今年はそこを乗り越えないといけないと思っています」

 桑田コーチから学んだことを聞くと、戸郷は「『ライン出し』という言葉が僕のなかで残っています」と答えた。ライン出しとは、桑田コーチ独自の投球理論である。

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