「王貞治の一本足打法は弱点でもある」。遅い球で詰まらせた安田猛の秘策 (2ページ目)

  • 長谷川晶一●取材・文 text by Hasegawa Shoichi
  • photo by Sankei Visual

――ちなみに安田さんは「王さんを抑えるのはインハイがキモだ」とおっしゃっていました。そして、王さんの引退後に「泳がされたピッチャーは何人もいる。でも、詰まらされたピッチャーは安田など数えるほどしかいない」と言っていたことが誇りだったそうです。

八重樫 安田さんは上手にタイミングをずらしたから、王さんを詰まらせることができたんです。緩いシンカーを投げていたことも、ストレートを生かしたんだと思いますね。ただ、王さんもやっぱりすごかったですよ。しっかり王さんを抑えられたこともあったけど、その次の年はまったくタイミングを狂わせることができなくなりましたからね。

【王さんに打たれた「757号」の思い出】

――安田さんの死後のニュースで、王さんが「安田さんから打った757号ホームランが印象深い」と言っていました。このホームランのご記憶はありますか?

八重樫 覚えていますよ。1977(昭和52)年の夏、王さんが世界記録の756号を打つかどうか騒がれていた時、ヤクルトと対戦したんです。この連載でも、鈴木康二朗さんが756号を打たれた場面のことを話したけど、その前に安田さんが打たれる可能性もあったんです。でも、「オレは絶対に記録となる一発は打たれない」とずっと言っていて、あれだけフォアボールが嫌いだった安田さんが「フォアボールでもいい」と話していたよ(笑)。

――結局、756号は打たれなかった。けれども、鈴木さんが756号を打たれた翌日の試合で安田さんが757号を打たれてしまったわけですね。

八重樫 あの試合は王さんのサヨナラホームランでした。王さんがあの試合をよく覚えていると言ってくれたのは嬉しいです。756号も僕の目の前で打たれたけど、757号も目の前で打たれましたからね。

――安田さんも現役時代の思い出として「王さんとの対決が最高だった」と語っていました。上から投げたり、横から投げたり、いろいろ工夫をしたと。印象的だったのは「王さんの一本足は大きな特徴ではあるけれど、僕は欠点だと考えたんです」という言葉です。

八重樫 まさにそうですね。あの独特の一本足打法でたくさんのホームランを打ったけど、安田さんは、「それは逆に弱点でもある」と考えていました。あれだけ遅いボールで、世界の王さんを詰まらせたんだから、やっぱりすごいピッチャーだったんですよ。

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