イチローの出現がセ・パの格差を生んだ...。レジェンド3人が語る証言 (3ページ目)

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki
  • photo by Sankei Visual

 ゲッツーの可能性、ということは、二遊間の守備隊形も気になるところだ。当時の西武でショートを守っていた田辺徳雄氏に聞く。

「まずイチローは足があって、内野安打があるので、当然、前進しています。けっこうショートにはボテボテのゴロが多かったので、何とかゴロアウトを取ろうと前に出る。そうすると外野との間が広くなるんですけど、そのゾーンに落とされたらしょうがない。守備範囲を広くして対応しようとすると内野安打が多くなるので、そこはもう捨てて、割り切って守っていましたね」

 広くなったゾーンに落とされたらしょうがない、という思いで、割り切って守る。そのような対処の仕方をする打者、イチロー以前にもいたのだろうか。

「いや、いなかったと思いますね。ですから、イチローが出てきて守るほうの意識は変わったでしょうし、他球団でもそうだったはずです。何しろ、彼を塁に出したら、足があるのでシングルヒットでもツーベースと一緒ですからね。だからこそ、まず出塁させないために、中途半端に守ってヒットゾーンを広げるんじゃなくて、割り切って前に出ていたんです」

 94年の西武はリーグ5連覇を達成した。それだけの常勝チームのディフェンスが、イチローのバッティングに対して「しょうがない」というスタンスを取っていた。現に当時の森祇晶監督も、「初めからイチローを封じようとするから苦しくなる。肝心なのは、彼の前にランナーを出さないこと」と語っている。

 この言葉は、ランナーなしでヒットなら「しょうがない」と言っているのと同じ。ヒットを打たれることが前提の、ある意味ではあきらめに近い考え方だろう。その点、黒木氏もそうした考え方になることはあったのだろうか。

「あきらめに近い感覚はありました。彼が3番を打っていて、ランナーが二塁にいたら、だいたいヒットで点が入っちゃうな、って考えるんですよ。もう、それだけでストレスなので、ランナーがいない状況でイチローが回ってくるように頑張るしかない(笑)。だから、いちばんストレスがかからないのは、2アウトランナーなしで彼を迎えることですね」

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