オリックスが「球界初」の攻めた姿勢。なぜ「素人」メンタルコーチを導入? (2ページ目)

  • 中島大輔●取材・文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Jiji Photo

 かたや、日本のプロ野球でメンタルコーチを常駐させる例は珍しい。しかも、酒井コーチはその道の専門家ではない。それでも球団から任命された理由について、本人はこう受け止めている。

「去年まで育成コーチをしていて、若い選手からすごく相談を受けていました。おそらく、それが福良(淳一)GMの耳に入ったのではないかと。若い選手の相談をしっかり受けてとめあげて、自分が進むべき道筋が見えてくるように話をしながら解決してあげてくれ、ということだと思っています」

 自身を「素人」という酒井コーチだが、実は現役時代、自身がメンタルトレーニングを導入して活路を開いている。

 東海大学時代は4年間補欠で、周囲から「ノミの心臓」と言われるほどマウンドで力を発揮できなかった。卒業後は日立製作所に進んだが、日の当たらない2年間を過ごす。

「お前、いいものを持っているんだけど、なにか足りねえな」

 勝負の3年目、ある先輩がメンタルトレーニングというものを教えてくれた。具体的に取り組んだのは、ポジティブシンキングとイメージトレーニングだ。

「お前は今年のオフ、ドラフト1位でプロ野球に指名された。その記者会見をイメージしてみろ」

 先輩の言葉を受けて、毎晩寝る前に5分、ドラ1になった自分の姿を想像してみる。最初は白黒テレビのような映像だったのが、次第に色がつき、光や温度、風を感じられるようになった。1カ月もすれば、会見場で記者から質問を受け、答えを返し、カメラのフラッシュが焚かれる光景が鮮明に浮かぶようになった。

 次のイメトレのテーマは、「新人王」だ。今度は容易に描けた。こうした心の持ちようが功を奏し、マウンドに立てば実力を発揮できるようになっていく。思考は現実化し、1988年ドラフト1位でオリックスに指名されると、翌年には9勝9セーブの活躍で新人王に輝いた。

「イメージするのはすごく大事。最近では『引き寄せ』と言われますよね。そういう大切さを先輩に教わりました」

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