「うまくパフォーマンスが出せない」不安な松井裕樹に田中将大が授けた金言 (3ページ目)

  • 田口元義●文 text by Taguchi Genki
  • photo by Koike Yoshihiro

 この「気持ちの幅」が、結果的にその後の活躍の大きな伏線となった。

 8月に一軍復帰後は、「いつでも戻せる」と自信を持つセットポジションで臨んだが、いきなり好投とはいかなかった。それには理由がある。松井は、マウンド上で自分なりにゲームメイクしていたからだ。

 開幕当初は、初回の1球目から空振りを奪いにいくかの如くフルスロットルで投げていた反省から、相手打者の反応を見ながらボールに強弱をつける。すると、力を入れなくても、きわどいコースに投げれば優位なカウントに持ち込めることを知った。

 もうひとつ収穫を挙げれば、フォークを完全にものにできたことだ。5年ほど前から習得に励んできたが、なかなか馴染まなかった。それが、先発として長いイニングを投げ、場面によっては打者にも積極的に試すことができたことで、完全な武器に昇華させることができたというのだ。

「先発でいっぱい球数を放れたことで、真っすぐでファウルを効果的に奪えるようになりましたし、フォークの精度もしっかり上がってきました。先発でそういったものを覚えたことで、無理に力むような球は減りましたね」

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 8月も終わりに差しかかったあたりから、成果がパフォーマンスに現れるようになった。20日の日本ハム戦で6回2失点、9奪三振、27日のロッテ戦では7回無失点、11奪三振。その後の登板も、打たれる試合はあったが「いい感じになってきた」と、松井は先発への可能性を見出していた。

 だが、5回無失点、12奪三振で勝利投手となった9月24日のロッテ戦を最後に、松井は救援へ配置転換された。

「残念に思う気持ちはありましたけど......」

 本音を聞かれれば、偽りなくそう答える。ただ反面、チーム事情もすぐに汲(く)んだ。この頃の楽天は救援陣が不安定で、なおかつCS圏内を争っていた。ショートイニングでの信頼感が抜群の松井に白羽の矢が立つのも、当然と言えば当然だった。

 三木肇監督からは「どうする?」という提示ではなく、「チームのためにやってくれ」と告げられた。松井が胸の内を明かす。

「先発の時よりチームから必要とされている感じを受けたので。それはやりがいがありますし、気持ちを入れ替えて、中継ぎでしっかりやろうと思いましたね」

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