巨人・秋広優人の打撃に見た独特の
感覚と品。王貞治以来の快挙なるか

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • photo by Ichikawa Mitsuharu(Hikaru Studio)

 巨人キャンプは昔から注目度が高いが、それを差し引いたとしてもここまでの秋広の活躍は目を見張るものがある。背筋を伸ばして、スッと真っすぐに立った自然体な構え。それだけで雰囲気が漂っている。力を入れて振ろうとしすぎない回転軸のたしかなスイング。しっかりヘッドが走るスイング軌道には品がある。

 秋広のバッティングで最も才能を感じるのが、インパクトの瞬間の頭とボールとの距離の取り方だ。差し込まれるでもなく、突っ込むでもなく、しっかりと自分のポイントまで引きつけて打てるから、打球に強さがある。おそらく、野球を始めた頃から持ち合わせている"独特の感覚"があるのだろう。こういうのは教えてどうこうなるものではない。

 キャンプでの映像を見ていると、打球はセンターからレフト方向に飛んでいる。無理に引っ張って距離を出そうとせず、高校時代のいいところをそのままアピールしているのがいい。

 もともとバッティングセンスがある打者だ。トレーニングによるパワーアップが、そのままスキルアップにつながるタイプだ。

 しかし、本当の意味での正念場はこれから始まる。一軍クラスの投手たちが本気で変化球を投げ始めた時に、今と同じスイング軌道を維持できるのかどうか。インパクトの瞬間にあの距離感を出せるのかどうか。大半のルーキーは、そろそろ紙面から名前が消えていく時期だ。

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「間違いないのは、東海大相模の山村(崇嘉/西武ドラフト3位)でしょうけど、夢を見させてもらえるのは秋広です!」

 昨年のドラフト直前、あるスカウトがそんなことを言っていた。そのスカウトの球団は秋広を指名できなかったが、きっと彼を報じる記事を見ながら、胸を躍らせているのではないだろうか。

 62年ぶりの快挙を実現するためには、まだまだ越えなければいけない壁は山ほどある。しかし、秋広にはそれを果たせるだけのポテンシャルと、規格外の可能性がある。プロ野球の開幕3月26日、巨人のスタメンに秋広の名があることを願いたい。

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